「ミランダ・レリーダと申します。私の美しさも眠っているのでしょうか⋯⋯お願いします。引き出してください婚約者が私を見てくれないのです⋯⋯」

 目の前にいる茶髪の令嬢の言葉に思わずため息をつく。
 付き合っている男が他の女を見るならばその男は地雷だ。

 そのような男の為に自分を変える必要などない。
 自分を変えるのはあくまでも自分の為であるべきだ。

「あなたの美しさは眠っています。でも、男の為に美しくなりたいというなら、お断りです。いつだって美しさは自分の為にあるべきです」
 レリーダ侯爵家といえば帝国一の富豪だ。

 私は彼女の足にしがみついてでも、自分の地位を保証してもらうべきだろう。
 すべき事が分かっていても、私のこだわりが邪魔をする。

「レタニアン皇太子の為に美しくなりたいというのは確かです。でも、彼は女に興味がないようで⋯⋯私はただ彼の女性への興味を少しでも引き出せればと思うのです。帝国の未来のためにも⋯⋯」

 一瞬、鳥肌がたった。
 どうやら美しいと評判のレタニアン皇太子は目の前の問題ない婚約者にも落ちない難攻不落の物件らしい。

「ミランダ嬢⋯⋯私があなたをすれ違う者が失神するくらいの美女に仕上げます。あなた様にはそれ程の美しさが眠ってますよ」

 目の前のミランダ嬢を上から下まで見定める。
 この中世西洋世界に珍しいイエローベースだ。
 似合う配色を考えるなら秋色が似合うだろう。

「ミランダ、あなたの赤髪はまるで秋に舞う紅葉のようです。そして瞳は上質なブドウを熟成させた赤ワイン」

 彼女は赤髪に赤い瞳を持っている。
 それゆえにドレスははっきりした赤を着ることが多いようだ。
(彼女に似合うのははっきりした赤じゃない。似合う赤ならボルドーのような赤⋯⋯)
 私は彼女にいつも着ない赤ではないマスタードイエローのドレスを着させた。
 メイクは深い赤と紫、アイラインは長めで。
 ミランダは大人っぽい顔立ちをしているのに、メイクは幼い。

 彼女に似合うメークをすれば、魅力を引き出せる。

 私は目の前のミランダを極上の熟成されたワインに仕上げるつもりだ。
 これで落ちないのであればレタニアン皇太子は男色だろう。