メイドのラリナは背が高くて、彫が深くてはっきりとした顔をしている。
 艶々の黒髪ロングは一つ束にまとめていたら勿体ないので、流すべきだ。

 そして、フリフリしたエプロンは似合わない。
 膝上のスカートも彼女の良さを消している。

 ロングスカートか、パンツスタイルの方が似合うだろう。
 こう言ったものは小柄な子が似合うのであって、彼女はエプロンを外してシンプルな格好をした方が良い。

「そのダサいメイド服は、まず脱ぎましょうか」

 私は自分のクローゼットから、彼女に似合う赤いロングドレスを用意した。
 彼女の赤い瞳と同じ印象的な強い赤だ。

「今からこれを着るのよ。胸はないようだけど、この首まで詰まっているドレスは胸がないあなたの方が上品に着こなせるわ」
「今から、ドレスを着るのですか?」

 戸惑いながらもラリナはドレスを着ることに、ワクワクを隠せないようだ。
(そう、その目よ! 今から、あなたは生まれ変わるの)

 私はまず彼女のほぼスッピンのメイクを注意した。
 そして、サーモンピンク色の口紅が恐ろしく似合っていない。
 彼女に似合うのはハッキリした色だ。
 
「あなたに似合うメークは違うのよ。可愛い系じゃなくて、モード系。まずは、そのシャケみたいな口紅を落とすわよ」
「モード?」
「そうよカラーでいえば、冬カラーが似合うの。はっきりした色ね。そのぼんやりしたメークでは自分を失うわ」
「でも、私はメイドなので⋯⋯」
「その意味もないカテゴリー捨てましょう。あなたは、今からメイドではなくて、ただのラリナよ。今からあなたの美しさは大暴走するわ。今まで抑えつけられた分ね⋯⋯」
 私は彼女の美しい顔立ちをより際立たせるように、シェーディングをした。
「あ、すごい⋯⋯これが、私⋯⋯」

 ラリナは鏡を見を見て自分の姿に見惚れている。
 私は人が新しい自分を見つけ出す瞬間に、異世界でも立ち会えた。
 やはり、美の伝道師としてこの世界でも生きていこうと決意を新たにした。
 
「ザッツイット! さあ、今すぐ仕事をすて、夜の街を闊歩してきなさい。どさどさとあなたにくっついてくる男たちを嘲笑いにね!」
「え、私、首ですか!」
「首ではないわ。ただ、今、この場所があなたの美しさを拘束できるだけの力がないだけ⋯⋯」

 似合わぬ服を着て仕事をする事で、ラリナは時を無駄にしている。
 女の美しさはいつだって儚いものだ。

「靴もヒールを履くの。何なの、そのペタンコ靴は!」
「でも、私、背が高いですし⋯⋯ヒールは履いたことがないです。痛そうで⋯⋯」
「楽に逃げてはダメよ! 美しくなるって、時には痛みも伴うのよ。背が高いから何なの? もっと、手の届かない女になってみなさいな」

 私の圧に押され黒いハイヒールをラリナは履いた。
 確かに、歩き慣れていなくてふらついている。

「エスコートボーイを呼びましょうか」
「エスコートボーイ? お、お嬢様?」

 私は彼女と見た目的に見合う身長を持つ執事のカイルを呼んだ。

「彼にエスコートさせなさいな。美しいあなたに見合うパートナーよ」
 このように男を選り好みしていたから、私は不幸だったのだろうか。

 いや、関係ない⋯⋯私は男なんて必要ない。
 自分がやりたい道を進むだけだ。

 その日を境にラリナのことが評判になり私の元へ貴族令嬢たちがごった返した。