目を開けたら見るもの全てがダサく見えた。
(何故、このような趣味の悪い部屋にこの私が⋯⋯)

 焦茶色の髪に、エメラルド色の瞳。
 マレリア・ハイント男爵令嬢になったようだ。
 頭の中に18歳のマレリア・ハイントの記憶が入り込んでくる。

 私は今、平民と変わらぬ貧乏男爵の家に生まれたモブ顔貴族令嬢だ。
 親が与えた部屋に文句なく済み、来年には家計のために二回り以上年上の侯爵と結婚させられる。
(美貌も金もチート能力も何もない⋯⋯)

「このダサい部屋の調度品、邪魔なだけでいらないわ。絨毯も、カーテンも全部おかしい。このような部屋に住んでるだけで、腐るわ」
 私の言葉にメイドたちが慌てている。

 貧乏だというのに、貴族だという薄っぺらいプライドが故にメイドを大勢雇っているのがハイント男爵邸だ。

 しかし、言われた事しかできないセンスのないメイドなど必要ない。
(お金をかけるのはそこじゃないわ⋯⋯)

「お嬢様、本当にこちらも捨ててしまうのですか?」
 メイドが持ってきたのは、ゾウが猿を咥えている、摩訶不思議な銅像だった。
(心底いらないわ! 北海道の木彫り熊の方がずっと可愛い!)

「売るわ。世の中にはね、自分には無価値なものでも他人には価値のあるものだということもあるの。それから、おかっぱメイド! あなたはダイヤの原石よ。砂ほどの魅力しか引き出せていない自分の秘められた美に気がついている?」

 私は目の前の黒髪と赤い瞳をした地味メイドに訴えた。

「美ですか?」
「そうよ、あなたは誰もが振り返る美人になれる金の卵よ! ちなみに名前は何?」
「ラリナです⋯⋯」
 私は目の前のメイドを誰もが振り返る美人に変身させることにした。
 目の前のメイドは人に興味のない私でも唆られる素材の持ち主だ。

「ラリナ⋯⋯あなたがこの世界で初めての私が魔法をかけるシンデレラよ」
 目の前の女の子が頬を染め期待した目で私を見ている。
 私に魔法をかけた途端、きっと彼女は全然違う目をしているだろう。