真っ白な空間に真っ白なドレスを着た金髪碧眼のウェーブ髪の美しい女性が立っている。
(美しい⋯⋯そのままでもパーフェクトビューティーだわ)

「前島カナさん。あなたは今死の縁を彷徨っています。元の世界で前島カナとして生きることもできますが、異世界に転生することもできます」
 これは夢だろうか。

 目の前のパーフェクトビューティーが私に異世界転生を薦めている。
 前島カナに戻ったとして、私はどうなっているのだろう。
 そこそこの有名人である自覚はある。
 ヒモのように飼っている過去の栄光しかない園田守に刺されたなんて良い笑い者だ。

「異世界転生など本当に可能なのですか?」
「前島カナとしての人生をお売り頂けるなら可能です。あなたが詰んだと思っている人生は他の方にとっては詰んでいなかったりします」

 目の前の美しい女性はこの世の人間ではないのだろう。
 慈愛の笑みを浮かべながら話してくるけれど、心の底の冷酷さが隠せていない。
 (人生を売る? すごい事言うわね⋯⋯)

「34歳、未婚。飼い犬が若い雌犬と交尾していた上に刺して来たんです。このような人生欲しい方がいるのですか?」

「あなた自分で思っているよりも、結婚に拘ってますね。男を飼い犬扱いするなら、本当の犬を飼って悠々自適に独身生活を謳歌したら良かったのです」

 謎の女の言い分に返す言葉がない。
 私は人と結婚生活を送る自信などない。

 1人が好きだし、誰かに合わすのは苦手で、私について来られる男がいるとは思えない。
 ただ、皆が私を称賛する際に「でも、結婚してないよね⋯⋯」と唯一の弱点のように突いてくるのが面白くなくて結婚したかっただけだ。

 承認欲求の塊だと自分を自己分析できている。
 私を認めない誰かがいるのが許せない。
 どうして、このように生き辛い自分になってしまったのかも分からない。

「まあ、そうですね。別に結婚して、すぐに離婚でも良いんです。私と一生を共にしたいという男が世の中にいることをしらしめられれば⋯⋯」

 ここには私と謎の女しかいない。
 だから、本音を吐露できる。
 
「くだらない女ね。でも、人間らしくて私は嫌いじゃないわ。本当に自分にしか興味がないのね。私の名前はカイよ、人に興味を持っているフリくらいした方が愛されるわよ」

 カイから貰ったアドバイスは私にとって役に立つものだ。
 (「俺に興味ないでしょ⋯⋯」)
 私は今まで何人もの男から、このセリフで振られて来た。

「カイさん。転生先の案内をしてくれますか?」
 私の言葉にカイは少し驚いた顔をした。
 確かに前島カナは稼ぎも良いし、他人から見れば詰んだ人生ではないのかもしれない。

 それでも、私は自分の世界に未練を持てなかった。
 人に興味のあるフリはした事はあるけれど、疲れるだけで見透かされて来た。
 どうせなら、異世界に転生し新しい美しいものを見る人生が欲しい。

「分かりました。あなたは3つの人生が選べます1つ目は老いた伯爵と結婚が決まっている貧乏男爵令嬢マレリア・ハイント。2つ目は貧しいけれど特殊能力持ちなので貴族界に入る平民レオナ、3つ目は世界を旅するユアンです。さあ、どれを選びますか?」

 私は選択肢にある3人が全員貧乏人で笑えてしまった。
 まあ、私は自分の稼ぐ能力を疑っていないので問題はない。

 それならば、1つ目の婚約者がいる女が良い。
 私に足らない結婚というピースを埋めて、すぐに夫になるべく人は死別してくれる。
「1つ目のマレリア・ハイントでお願いします」

 私の言葉と共に辺りはカイの姿が見えなくなるくらい、眩しい光で包まれた。