総長代理は霊感少女!? ~最強男子の幽霊にとり憑かれました~

 一夜明けて。
 ベットの上で目を覚ました私は、う〜んって体を伸ばす。
 そしてベットから出ると、恐る恐る部屋のドアを開けて、外を見た。

「先輩……起きてますか?」
「ああ……」

 部屋の外には桐ヶ谷先輩が、足を崩して座っている。
 結局昨夜あの後、どうやっても離れられないもんだから、先輩を家まで連れてくるしかなかったの。
 うちに来た桐ヶ谷先輩はまず、現在私が一人暮らしをしていることに驚いてた。
 実は私の両親は、仕事で数ヶ月家を空けてるの。
 桐ヶ谷先輩、「ますますヤベェ」って頭を押さえてたっけ、

 それからはもう、大変なことの連続。
 幸い先輩は、少しくらいなら私から離れられて、お風呂に入るときや着替えるとき、外までなら移動することができた。
 けどすぐ近くにいると思うと、やっぱり恥ずかしい!

 寝るときも、先輩は部屋の外に。
 一晩中廊下ですごしてもらうのはどうかと思ったけど、桐ヶ谷先輩、「同じ部屋で寝るなんてあり得ない」だって。
 けど、正直助かった。
 だって今こうしてパジャマ姿を見られてるだけでも抵抗があるのに、寝ているところを見られるってなったら、恥ずかしさが限界を突破しちゃうもの。

「昨夜は、ちゃんと眠れたか? 昨日から、迷惑かけっぱなしで悪い」
「困ったときは、お互い様ですよ。そうだ、私先に着替えておきますね」

 再び部屋の中へと引っ込む。
 昨日お風呂から上がってから何度も見られたとはいえ、なるべくパジャマのままでいたくはない。
 着替えて、顔を洗って、それから朝食の準備をはじめ、リビングのテーブルにパンとサラダを並べた。

「朝、それだけで足りるのか?」
「はい。朝はそんなに食べられないんです」
「それで昨日は昼飯まで抜いたんだから、そりゃ倒れるわな」
「あのときは大変、ご迷惑おかけしました。そういえば……」

 用意した朝食と、桐ヶ谷先輩を交互に見る。

「先輩は、なにも食べられないんですよね。昨夜も私1人で食べちゃいましたけど、お腹は空かないんですか?」
「不思議と全然空かねー。幽霊だからだろうな」

 たしかに、幽霊が飲み食いするなんて聞いたことがない。
 だけど昨日夕飯を取ったときもそうだったけど、桐ヶ谷先輩がなにも食べないのに私だけが食べるというのも、罪悪感があるよ。
 あ、でもそれなら。

「あの、先輩。昨日やったみたいに、私に憑依することってできますか?」
「は、憑依? なんでまた?」
「だって憑依すれば、先輩も一緒にご飯を食べれるじゃないですか」

 身体は私のものだから、栄養はちゃんと私にいくはずだし、問題なし。
 桐ヶ谷先輩はちょっと考えたけど、「試してみるか」って私に触れてくる。

「ん? おい、皆元の体に、触れられるぞ」
「本当だ。これも、とり憑かれた影響?」

 私も専門家ってわけじゃないから、詳しいことはわからない。
 触れるようになった桐ヶ谷先輩の手は冷たく、これはたぶん幽霊だからかな?

「新しい発見だな。けどこの状態でも、憑依なんてできるのか?」
「とにかく、試してみましょう」

 って言ったけど。
 私はすぐに、考えが足りなかったことを自覚させられる。
 桐ヶ谷先輩は正面から、まるで抱き締めるようにしてきたんだもの!

「せ、先輩!?」
「悪い。体に入るってなると、どうしてもこんな感じになる。嫌ならやめとくか?」
「い、いえ。続けてください」

 言い出したのは私なのに、ここで投げ出すわけにはいかない。
 桐ヶ谷先輩が私を抱き締めるように重なると、その瞬間。
 先輩が吸い込まれるように、私の中に入ってきた。
「憑依できたのか?」
(私の口でしゃべってますから、成功です)
「なんだか変な感じだな。つーか皆元、今までもこんな風に憑依されたり、幽霊にとり憑かれて離れられなかったりしたことがあるのか?」
(……少しは。けど大抵は、すぐに出ていきました)

 美味しいものをお腹いっぱい食べたいっていう男性に憑依されたときは、夕飯をたくさんおかわりしたら満足して成仏してくれた。
 その後お腹を壊して、苦しい目にあったけど。

 病気でなくなった女性にとり憑かれたときは、お子さんに一目会いたいという願いを叶えるためその人の家に行って、会わせてあげたっけ。
 そんな風に心残りや悩みを晴らすと、幽霊は成仏してくれるんだけど……。

 桐ヶ谷先輩の場合は、どうなんだろう? 
 生霊にとり憑かれたのは初パターンだし、もしも体に戻れない原因が悩みによるものなら、桐ヶ谷先輩の悩みって何?

 七星のことが気になるなら、むしろ元の体に戻った方がいいんだけどなあ。
 そんなことを考えながら、とりあえず朝食を取る。
 憑依した先輩が食べてるんだけど、味は私にも伝わってきた。

「旨いな。またこうして、飯が食えるなんて思わなかったよ。ありがとな」
「ど、どういたしまして」

 穏やかな顔でお礼を言ってくれた桐ヶ谷先輩を見て、朝食をもうちょっと多くしてもよかったかもって思った。

 それから朝食を食べ終えて、学校に向かう。
 もちろん桐ヶ谷先輩は私から離れられないから、一緒に登校することになった。

 だけど生霊とはいえ、誰かと一緒に登校するなんて数年単位でなかったから、変に緊張しちゃう。
 さらに途中、いつもの道で真夏ちゃんと会ったんだけど、そしたら……。

「ええっ、その人、美子お姉ちゃんの彼氏!?」

 なんて言ってきて、ビックリしてひっくり返りそうになった。
 真夏ちゃんも幽霊だから、生霊の桐ヶ谷先輩ことが視えるだろうなとは思っていたけど……。

「ち、違う違う違う! 彼氏なんかじゃないってば!」
「……そこまで強く否定しなくてもいいだろ」

 あれ、なぜか桐ヶ谷先輩が、不機嫌になっちゃった。
 とにかく、真夏ちゃんの誤解を解いてから別れて、学校へ。
 いつもは誰かに話しかけられる事もないんだけど、今朝は教室に入ったとたん、先に来ていた拓弥くんが声をかけてきた。

「美子、あの後どうなった?」
「拓弥くん、おはよう。……桐ヶ谷先輩は、私の後ろにいるよ」
「それで、その……昨夜はなにもなかったよな?」
「なにもって?」

 周囲の様子をうかがいながら、小声で話す。
 普段誰とも話さない私が、拓弥くんとしゃべってるんだもの。
 どうしてあの二人が? って顔で見てる子もいるから、聞こえないよう気を付けないと。

「……皆元、拓弥に『あるわけないだろアホ』って言っとけ」
「ええと、先輩は、『あるわけない』って言ってる」
「そっか。まあ、響夜さんなら大丈夫に決まってるか」

 どうしてホッとしてるのかわからずに首をかしげたけど、拓弥くんは思い出したように言ってくる。

「美子、その……悪い。お前が幽霊が視えるって言っても、信じてあげられなかった。本当に悪い」
「仕方ないよ。視えないのに、信じるのは難しいもの。けど、もう信じてくれたんだよね」
「当たり前だろ」

 だったら、嬉しい。
 小学生の頃、私のことを「変な子」って言ってたクラスの子に同意したのを目撃したあの日から、拓弥くんの間に壁ができてしまっていたけど。
 長い間あったモヤモヤが、やっと晴れた。
 わかってもらえたことが、本当に嬉しい!

「今更だけど、何か困ったことがあったら、俺に言ってくれ。響夜さんの件もあるし、俺にできることなら、なんでも力になるから」
「え? そんな、悪いよ」
「皆元、ここは素直に受け取っておけ。その方が、そいつも喜ぶ」

 戸惑う私に言ってくる、桐ヶ谷先輩。
 そ、それなら……。

「じゃあ……よろしくお願いします」
「ああ!」

 満面の笑みで返事をする拓弥くん。
 こんな拓弥くんを見るのは久しぶりで、私まで心がポカポカしてくる。

「よかったな、皆元」
「はい……先輩のおかげです」

 桐ヶ谷先輩にとり憑かれたときは大慌てで、これからどうなるか不安だったけど、悪いことばかりじゃない。
 ……拓弥くんと話してるせいで周りから注目されてるのは、ちょっと緊張するけど。
 けどもう一度話せるようになったのは、本当に嬉しいよ!

 ……だけど、昼休みになって。

「失礼する。拓弥、それに皆元美子さんはいるかな?」

 教室にやってきた染谷先輩がそう言ったことで、私は再び注目を集めるのだった。

 突然教室にやってきた、染谷先輩。
 しかも拓弥くんはともかく、私まで名指しで「一緒に来てくれないか」って言ったもんだから、私はもちろんクラスの人たちもみんなビックリしてた。

「どうして皆元さんが?」「しめられるんじゃないの?」などの声と視線を背中に受けながら教室を出て向かったのは、昨日も行ったアジト教室。

 そこには春風先輩もいて、生霊の桐ヶ谷先輩も含め、昨日のメンバーが勢揃い。
 いったいなにがあるんだろうと思っていると、染谷先輩が。

「単刀直入に言う。昨日、七星のメンバーが襲われた。やったのは、紫龍の奴らだ」
「アイツら、性懲りもなく!」
「くそ、俺が体に戻れたら、好き勝手させねーのに」

 拓弥くんは怒って、桐ヶ谷先輩も悔しそう。
 なんて声をかければいいか分からずにいると、今度は春風先輩が。

「厄介なのはそれだけじゃないよ。昨日も話したけど、メンバー内で紫龍を潰そうって声が上がってる。けど、今の七星はまとまっていない。もしもこのままぶつかったら、被害は甚大になる」
「ええっ!? それじゃあ、止めないと!」
「そ。けどあいにく、俺達の言葉じゃ、アイツらを抑えきれそうにない。響夜ならできたんだろうけどさ。アイツの総率力を、ここにきて思い知らされたよ」

 苦笑いを浮かべる春風先輩。
 続いて、染谷先輩が。

「とにかくそういうわけで、今僕達がやるべきは、チームをまとめること。けどこのままじゃそれも難しい。だから考えたんだ、響夜が戻ってくるまで代わりにチームを引っ張っていく総長代理を立ててたらどうかってね」
「総長代理? けど、誰がやるんすか? 晴義先輩か、直也先輩ですか?」
「いや。残念だけど、僕達では力不足。だから、皆元さんを呼んだんだ」
「え? わ、私ですか!?」

 けど私に、いったいなにができると?
 すると染谷先輩と春風先輩が、信じられないことを言った…

「皆元さん頼む! 総長代理になって、七星をまとめてくれないか!」
「こんなことを女の子にお願いするのはどうかと思うけど、君にしかか頼めないんだ!」
「えっ……ええーっ!?」

 待って待って待って! どうしてそうなるんですか!?

「わ、私が総長代理って。それって昨日やったみたいに桐ヶ谷先輩の声を聞いて、七星の人達に伝えてほしいってことでしょうか?」
「そうだ。皆元さんは、響夜と話せるんだろう。響夜の言葉なら、みんなをまとめられる」
「で、でも幽霊が視えるって、信じてもらえるかどうか」
「晴義さん、俺も反対です。俺達だって最初は、響夜さんの幽霊なんて言われても信じなかったじゃないですか。美子が総長代理になっても、かえって混乱するんじゃないですか?」

 そうそう、拓弥くんの言う通り!
 大勢の前で桐ヶ谷先輩の幽霊が視えるなんて言って、信じてもらえなかったら。
 疑われて、白い目で見られたらって思うと、考えただけでお腹が痛くなってくる。
 すると……。

「……悪い皆元、少し体借りる」

 え、桐ヶ谷先輩?
 先輩は私の中に入ってきて、体の自由を奪われる。
 憑依したんだ!

「晴義、直也! お前らなにを言ってるかわかってるのか? 俺が言うのも何だけど、これ以上皆元を巻き込むな。七星の問題は、俺達だけでなんとかするぞ」
「響夜か? また皆元さんに憑依したのか?」
「ああ……べつに俺や皆元に頼る必要はないだろ。お前らなら俺がいなくても、チームをまとめられ……」
「そう簡単にはいかないさ。蓮さんがチームを抜けたときだって、大変だっただろう」
「それは……」

 口を閉じる桐ヶ谷先輩。 
 体を通じてモヤモヤした気持ちが伝わってきて、変な感じがする。

(あの、蓮さんというのは?)
「俺の前の総長で、七星を作った人だ」

 そういえば桐ヶ谷先輩は2代目総長だって、前に言ってたっけ。
 その蓮さんが抜けたときになにがあったかは分からないけど、チームのトップが変わるんだもの。
 簡単な話じゃないみたい。

「響夜の言う通り、皆元さんに代理を頼むのが正解かはわからない。けど俺達の中の誰も、響夜の代わりなんて勤まらない。だからこれは賭けなんだ。七星が崩壊するかどうかの」
「響夜は、七星が潰れてもいいのか?」
「──っ! いいわけないだろ!」

 言い合う先輩達。
 みんな七星のことが大事で真剣に考えているのがわかる。
 ど、どうしよう? 正直自信は全くないけど、それでももしも私が、力になれるのなら……。

(あの、桐ヶ谷先輩。先輩さえよければ私……総長代理やります!)
「本気か皆元!?」
(だ、だってそうしないと、七星が大変なんですよね)

 だったら、放っておくなんてできないよ。
 すると、私の声が聞こえない春風先輩が聞いてくる。

「響夜、美子ちゃんと話してるの?」
「……総長代理を、やってもいいって」
「美子、マジかよ!? お前は昔から、そういうとこあるよな!」
「皆元さん、ありがとう。あとは響夜次第だけど、どうする?」
「俺は……」

 桐ヶ谷先輩は黙っていたけど、やがて決心したように言う。

「皆元、すまない。七星のために、力を貸してくれ」
(は、はい! どれだけできるかわかりませんけど、頑張ります!)

 これでようやく、全員の意見が一致した。
 あ、でも一つ気になることが。

(あの、桐ヶ谷先輩。みなさんと相談したいことがあるので、体を返してもらえませんか?)
「ああ。お前ら、皆元が話があるってよ」

 桐ヶ谷先輩が私から離れて、これでしゃべりやすくなった。

「みなさん。私も、できる限りのことはしたいですけど……幽霊が見えるというのは、ナイショにしたままではできないでしょうか?」
「は? なんでだよ」
「もしも信じてもらえなかったら、それこそチームがまとまらない気がして。今まで信じてもらえないことが、ほとんどだったので」
「それは……」

 気まずそうに黙る拓弥くん。
 春風先輩や染谷先輩も、難しそうな顔をしてる。

「でも桐ヶ谷先輩の幽霊が視えるのは秘密でも、何らかの形で先輩の意思を伝えられたら、七星の人達の心を動かせると思うんです。私を通すことになっても、話すのは桐ヶ谷先輩の言葉なんですから」
「なるほど。たしかに僕もはじめは、幽霊なんて言われても信じられなかったからなあ。皆元さんの言う通りかも」
「けど秘密にするなら、どうやって響夜さんの言葉だって分からせるんですか?」
「そこは何か、設定でも考えないといけないな。例えば自分に何かあった時は皆元さんを頼るようにって、響夜が僕達に伝えていたことにするとか」
「でも響夜さんと美子って、元々は接点ありませんよ?」

 話し合う拓弥くんと染谷先輩。
 難しいこと言っちゃったって思うけど、幽霊が見えるって言っても信じてもらえるか分からないというのは、私が1番よく知ってる。

 桐ヶ谷先輩も腕を組ながら、「皆元にチームを託すだけの理由か……」って考えてるけど、答えは出てないみたい。
 けどここで、春風先輩が手を上げた。

「だったらさ、俺に妙案があるよー。美子ちゃんがね、響夜の彼女ってことにしちゃえばいいんだよ!」
「え?」
「は?」
「はぁっ!?」

 私と桐ヶ谷先輩、それに拓弥くんの声が重なる。
 かのじょ……カノジョ……彼女ーっ!?

「ま、ままま、待ってください。どこをどうやったらそうなるんですかー!?」
「……直也、また突拍子もないことを。皆元、どうせ冗談なんだから、真面目に取り合わなくていいぞ」

 呆れたように、ため息をつく桐ヶ谷先輩。
 だけど……。

「なあ、いいアイディアだろう」

 自信満々に胸を張る春風先輩を見ると、冗談で言ってるのか本気なのか、わからなかった。
「美子ちゃんここだよ~。俺のイチオシの美容室。話は通しておいたから、安心してね~」
「は、はい。ありがとうございます、春風先輩……じゃなくて、直也先輩」

 放課後になってやってきたのは、直也先輩のお勧めする美容室。
 ちなみに先輩を下の名前で呼んでいるのには訳があって、七星のメンバーは基本、名字でなく名前で呼びあうのだという。
 総長代理をやるなら、私もそれに合わせるべき。
 というわけで春風先輩だけでなく、染谷先輩のことも晴義先輩って呼ぶことにしたけど、まだ慣れていない。
 拓弥くんだけは、今まで通りだからいいんだけどね。

 そしてどうして美容室に来てるかというと、話は昼休みに遡る……。


 直也先輩が私を、桐ヶ谷先輩の彼女ってことにしようって言い出して、てっきり冗談かと思ったんだけど……。

「べつにふざけて言ってるわけじゃないって。響夜が何かあったときに、俺たち以外でチームを託す相手がいるとしたら誰か。俺なりに考えたんだって」
「それで俺が、彼女になら託すって考えたってわけか? 皆元、寝言は寝て言えって、直也に言ってやってくれ」

 桐ヶ谷先輩はそう言ったけど、言えませんよ。

「き、桐ヶ谷先輩は、反対してるんですけど。仮に彼女さんがいたとしても、チームは託さないみたいです」
「だよなだよな。俺も響夜さんなら、そうはしないと思う。やっぱり別の手考えよう」
「拓弥、お前のそれは私情が入ってないか? まあ響夜本人が言うなら間違いないんだろうけど、大事なのは説得力なんだよ。響夜の彼女がチームを任されたって言って、俺達もそれを認めたら。その彼女が響夜なら言いそうなことをズバズバ言ったら、みんな信じる気にならない?」

 それは……そうなっても、おかしくないかも。
 少なくとも桐ヶ谷先輩の幽霊がここにいて、声を伝えますって言うよりは、説得力がある気がする。

「たしかに。いかにも直人っぽい発想だけど、悪くはないかも。けど、響夜は納得してないんだよな?」
「響夜は案外お堅いからねえ。でも、だったら他にもっといい案浮かぶ? なんかあるなら、べつにそっちでもかまわないけど」

 直也先輩はみんなを順番に見たけど、誰も何も言わない。
 さっきは反対してた桐ヶ谷先輩も、代案がないのか、うつむいたまま黙っちゃってる。
 かくいう私も、他の案なんて浮かばない。
 あ、でも……。

「あの、ちょっといいですか。私が桐ヶ谷先輩の……か、彼女って設定、無理があると思うんですけど」
「え、どうして?」
「私と桐ヶ谷先輩とでは、釣り合いませんから。私、かわいくもなければ地味ですし。彼女だなんて言っても、それそこ説得力がないと思うのですが」

 言ってて悲しくなるけど、これは事実。
 地味で友達もいない私と、格好よくてファンも多い桐ヶ谷先輩が付き合ってるなんて言っても、笑われる気がする。
 それに……。

「ウソとはいえ私が彼女ってことになったら、桐ヶ谷先輩だって嫌なんじゃ」

 桐ヶ谷先輩の様子を、チラチラ窺いながら言う。
 だけど。

「べつにそこは構わない。つーかそんな風に、自分を卑下するのはやめろよな」
「ご、ごめんなさい」

 てっきり嫌な顔をされると思ったのに。
 きっとよっぽどチームのことが大事なんだろうなあ。
 けど桐ヶ谷先輩はよくても、普通に考えたらやっぱり不釣り合い。
 彼女のふりをするなんて、無理があるけど……。

「だったらさ。美子ちゃんさえよかったら、ちょっとイメチェンしてみない?」
「イメチェンですか?」
「そうそう。美容室に行ったりメイクしたりして、可愛くなるんだよ。というか前から思ってたけど、その前髪長すぎない? 何かこだわりでもあるの?」
「これは……視界を悪くした方が、幽霊が視えにくくなるかなーって思って、伸ばしてたんです。結局、効果ありませんでしたけど」
「じゃあ、切っちゃっても大丈夫?」

 それはまあ。
 切るタイミングがなくて、そのままにしてただけだから。
 桐ヶ谷先輩は、「嫌ならハッキリ言っていいんだぞ」って言ってるけど、髪型を変えるのには抵抗はありません。
 けどそれくらいで、印象が変わるとは思えない。
 でも、直也先輩は。

「心配しなくても大丈夫。腕のいい美容室知ってるから、ドーンと任せて。晴義も拓弥も、それでいい?」
「僕はべつに。美子さんや響夜が反対しないなら、それで」
「俺は反対! 反対ったら反対!」

 拓弥くんは私が彼女って設定はやっぱり無理があるって思ったのか、最後まで反対してたけど。
 結局直也先輩に押しきられて、美容室に来たというわけ。

 髪を切る間、直也先輩は美容室の向かいにあるカフェで待ってる。
 残された私は美容師さんにお任せして、散髪開始。
 今まで髪を切るのは床屋さんだったから緊張したけど、美容師さんはチョキチョキ切っていってくれて。
 長かった前髪はなくなり、すっかり視界が広くなった。
 そうして髪を切り終えて、お店を出たけど……。

「あの、桐ヶ谷先輩。どうでしょうか?」

 お店を出たところで、後ろについてきてる桐ヶ谷先輩に聞いてみる。
 ちょっと切ったところで大して変わらないってわかってはいるけど、それでもやっぱりドキドキしちゃう。
 だけど桐ヶ谷先輩は……あれ、どうして目を反らしているんですか?

「あの、桐ヶ谷先輩? どうかしましたか?」
「いや、ちょっと……ヤバいなと思って」
「──っ! そ、そんなにおかしいですか!?」
「違う、いい意味で言ったんだ! ……髪切っただけで、変わりすぎだろ」

 桐ヶ谷先輩の頬が、ほんのり赤い気がする。
 と、とりあえず、悪くはないって思っていいのかな?

「つーかお前。さっきから思ってたけど、どうして俺だけまだ名字で呼んでるんだ?」
「え?」

 そういえば。
 名前呼びにした方がいいってなって、晴義先輩や直也先輩は下の名前で呼び合うようになったけど、桐ヶ谷先輩はそのままだった。

「彼女ってことにするなら、アイツらだけ下の名前で呼びあって、俺だけ名字なのは不自然だろ」
「そ、そうですね。すみません、気がつきませんでした」
「謝らなくてもいいけど、俺のことも名字じゃなくて名前で呼んでくれるか、美子」
「──っ!?」

 美子と呼ばれた瞬間、なぜか全身がカッと熱くなる。
 晴義先輩や直也先輩に呼ばれたときは照れはしたものの、こんな風にはならなかったのに。
 理由がわからずに、混乱していると……。

「どうした? 気分でも悪いのか?」
「な、なんでもありません。それより、直也先輩が待っていますから、行きましょう……き、響夜先輩」
「ああ……ちょっと思ったんだが、先輩より呼び捨ての方が、彼女っぽくないか?」
「そ、それは……難しいので、せめてさん付けでいいですか?」

 そんなやり取りがあった後、私達は直也先輩の待ってるカフェへと入っていく。
 えーと、直也先輩は……あ、いたいた。
 あれ、一緒にいるのは、晴義先輩と拓弥くん?

「だから俺だって、七星のことは考えてるよ。けどなにも、髪まで切らせることなかったんじゃ」
「なに言ってるんだ。むしろ七星関係なしに、あれはちょっと切った方が、絶対よくなるって。女の子は可愛くさせてなんぼでしょ。なあ晴義」
「僕にふられても困る。まあ、たしかにあれはちょっと、モサかったけど」

 どうやら拓弥くんたちも合流してたみたい。
 私は彼らに近づいて、声をかける。

「あの、お待たせしました」
「お、どうだった美子ちゃん……んんっ!?」

 あれ、どうしたんだろう?
 直也先輩が私を見て固まっちゃった。
 ううん、直也先輩だけじゃなくて、拓弥くんも晴義先輩も、目を丸くしている。

「あ、あの……そんなにおかしかったでしょうか?」
「へ? いやいや全然。ていうか、マジで美子ちゃんなの? 美容室を勧めたのは俺だけど、ここまで変わるとは」
「今までは前髪で顔が見にくかったから、気づけなかったってことか……」

 マジマジと見つめてくる、晴義先輩と直也先輩。
 そして拓弥くんはというと、なぜか頭を抱えていた。

「おい拓弥、お前これ、知ってて黙ってただろ。美容室に行くのを反対してたのは、こういうことか」
「ええ、そうですけどなにか? ああーっ! 美子のことは、俺だけが知ってりゃ良かったのにーっ!」

 みんななにやら騒いでいるけど、何のことを言っているのかわからない。
 響夜さんならわかるかなって思って、目を向けると。

「……美子がかわいすぎて、驚いてるだけだろ」
「か、かわっ!?」

 私は夢でも見ているの?
 響夜さんが絶対言わなさそうな言葉が、出てきたんですけど!?

 けど、本気にしちゃいけない。きっと気を使って、ほめてくれてるだけ。
 けどそうだって分かっていても、胸の奥のバクバクはおさえられない。
 だって男子にかわいいって言われたのなんて、はじめてなんだもの。

 しかも言った相手が、本来雲の上の人な響夜さんだとなおさら……はっ!

「あの、そういえば本題。一応言われた通り切りはしましたけど、やっぱりこれくらいじゃ、彼女設定は無理ですよね?」 

 仮にも響夜さんの彼女を名乗るなら、釣り合うくらいの花が必要。
 髪を切ったくらいでどうにかなるはずがない。
 なのに……。

「なに言ってんの。バッチリだってば!」
「まあ容姿でいえば、問題はなくなったか」
「本当に、響夜さんの彼女ってことになるのな……。仕方ねーけど、やっぱり悔しい!」

 よくわからないけど太鼓判を押されて。
 みんなが言うなら、とりあえず大丈夫と思っていいのかな?
 次の日の放課後。
 私は拓弥くん達に連れられて、七星のアジトに案内された。
 何度か行ったアジト教室とは違う、学校外にある大きな倉庫を改造したアジト。

 そこには七星のメンバーが2、30人くらい集まっていて、拓弥くん達3人がなにやら話している。
 そして私は奥にある部屋から、その様子を隠れてうかがっていた。

「きょ、響夜さん。七星って、あんなに人いたんですか?」
「まあな。美子、もしかして緊張してるのか?」
「はい……。これから、あんな大勢の前で話すと思うと……」
「そんなに気負うな。学校の教室で、発表するようなものだから」
「わ、私、発表って苦手なんです」

 大勢の前に立つとテンパっちゃって、上手くしゃべれないの。
 しかも今日は、朝からたらと視線を感じてるんだよね。

 なぜか学校に行ったら、みんなビックリしたみたいにこっちを見てる気がするの。
 やっぱり、髪型を変えたのが変だったのかなあ?
 って、そんなの自意識過剰だよね。
 ちょっと髪型を変えたからって、元が地味キャラじゃあ注目なんてされるわけないし。 
 それよりも大事なのは、これからのこと。
 見ると晴義先輩たちが、チームの人達に話をしている。

「……というわけで、響夜は無事だ。入院してはいるが、回復の目処はたっている。だが、戻ってくるまで時間がかかるだろう」
「そこで、響夜が戻ってくるまでの間、ある人に総長代理を頼むことにしたんだ」

 直也先輩の言葉に集まっていた人達がザワザワと騒ぎ出して、拓弥くんがこっちに来る。

「美子、いけるか?」
「う、うん」
「顔色悪いけど、本当に大丈夫か?」

 響夜さんは心配してくれてるけど、今さらやめるなんてできない。
 すると背中に何かを感じて、見ると響夜さんが手を触れている。

「ここまで巻き込んでしまって悪い。けど、何かあったら俺もついてる。大丈夫だ」
「響夜さん……」

 ハラハラしていた心が、少し落ち着いた気がする。
 拓弥くんに連れられて、七星の人達の前へと歩いていく。

「女? あの子誰だ?」
「メチャクチャかわいい」

 みんながザワつく中、晴義先輩と直也先輩の間に立つ。

「彼女が総長代理の、皆元美子さんだ」
「お前ら驚くなよ。美子ちゃんは響夜の彼女で、あの響夜が自分に何かあったら俺達を頼むって、七星を託していた子だ」

 2人が言うと、ざわめきがさらに大きくなる。
 み、みんなどう思っているだろう? 私みたいなのが彼女って言っても、信じられないんじゃ……。

「響夜さん、彼女なんていたのか? 女子なんて眼中にないって感じだったのに」
「あの子は、特別なんじゃないか。かわいいし」
「まあ、あの子なら響夜さんの彼女って言われても、納得かも」

 あ、あれ? 意外と疑われてはいないみたい。
 だけど……。

「晴義さん。ソイツが響夜さんの彼女ってのは分かりました。けど、だからって総長代理なんて、勤まるんですか?」
「そうですよ。紫龍に殴り込もうって時なんですよ」

 あちこちからあがる、総長代理への疑問の声。
 いくら響夜さんの彼女だからって、いきなり総長の代わりだなんて言われても受け入れられないのも無理ないよね。
 けど、これくらい想定内。
 私は、一歩前に出る。

「みなさん、はじめまして。私の名前は皆元美子。響夜さんから、七星を任されました。突然のことで混乱してる人もいると思います。ですが、いくつか言わせてください。まずは紫龍への報復について。現状ではこれは、一切考えていません」
「は、なんで?」
「総長の仇討ちをするんじゃないのか!?」
「みなさんの気持ちは、わかっているつもりです。ですが、響夜さんはそんなことは望んでいません。大事なのは紫龍を倒すとこじゃなくて、七星をま、まみょることょ」

 ──っ! 大事な場面で噛んだー!

 事前に響夜さんから言ってほしいって言われていた言葉を、体育祭の入場行進なみに何度も練習してたのに、盛大に噛んじゃった!
 や、やっぱり大勢の前でスピーチなんて、難易度高かったーっ!

 おそるおそる前を見ると、案の定みんな、「こんなのが総長代理で大丈夫か?」って顔をしてる。
 や、やっちゃったー!

「直也さん! やっぱり俺、納得いきません!」
「いくら響夜さんの彼女だからって、こんな」
「まあ待て。お前ら落ち着けって」

 直也先輩、それに晴義先輩や拓弥くんも慌てて収集に入る。
 わ、私のせいで大変なことに。
 だけどそのとき、ポンと肩に手が置かれた。
 響夜さんだ。

「美子、体貸してくれるか?」
「は、はい」

 これも事前に話していて、もしも何かあったら響夜さんに憑依してもらうことになっていたんだけど、今がそのとき。
 響夜さんは私の中に入ると、下がっていた顔を上げる。

「お前ら、ゴチャゴチャ言ってんじゃねー!」
「「「っ!!」」」

 空気をビリビリと震わす声が、倉庫に響いた。
 さっきまで騒いでいたみんなは水を打ったみたいに静かになって、こっちを見る。

「言いたいことは分かる。紫龍の奴らをのさばらせたくないってのは、俺だって同じだ。だけどハッキリ言うぞ。今のお前らが挑んだところで、返り討ちにあうのがオチだ」
「なっ!? そんなの、やってみないとわかんねーだろ!」
「いーや分かる。今の七星は、まるでまとまりがねー。こんなんで殴り込みをかけて本気で勝てると思ってるやつがいたら、前に出てみろ!」
「──っ!」

 さっきはあんなにやる気だったのに、痛いところをつかれたのか、誰もなにも言い返せない。
 一瞬で黙らせちゃうなんて。
 響夜さん、本当にチームを引っ張る、総長さんなんだなあ。

 さっき私がしゃべっていたときとは全然違って、体も声も私のものなのに、私じゃないみたい。
 一人称だって、俺になっちゃってるし。

「悔しい気持ちも、なめられなくねー気持ちもわかる。けどここで早まったマネをしたら、それこそ敵の思う壺、今は耐える時だ。響夜なら絶対にそう言う。俺が言うんだから間違いねー」

 そりゃあ、私の体を借りて、本人が言ってるんだものね。
 みんなは響夜さんが憑依してるなんてわからないだろうけど、やっぱり本人が言うと説得力が違うのかな。
 誰も反対なんてしてこない……って、思ったけど。

「それじゃあ俺は、チームを抜ける。一人でも、紫龍にケンカ売ってやるよ!」

 そう言ったのは、金髪の男子。
 彼はワタシを、キッとにらみつける。

「彼女かなんか知らねーけど、ぽっと出のアンタが響夜さんの代わりだなんて、俺は認めねー。響夜さんの代わりなんて、いないんだよ!」
「圭介……いきなり代理なんて言われても、納得できなくても無理ねーよな。けど、お前1人を行かせるわけにはいかない。力付くでも止める」
「は、女になにができるってんだ!」

 圭介と呼ばれた彼は、ワタシに向かって拳を振り上げた。
 な、殴られる!

 だけど響夜さんは難なくその手を掴んで、逆に締め上げた。

「いでで! な、なんだコイツ!?」
「いきなり殴りかかるとは、いい度胸だな。けど、寸止めするつもりだったんだろ。お前、女や弱いやつは絶対殴らないって言ってたもんな。お前が拳を振るうのは、いつだって仲間のためだ」
「なっ!? アンタ、どうしてそれを?」
「俺……響夜から聞いたんだよ。お前は弱い者いじめをしない、仲間思いのやつだってな」
「響夜さんが……」

 驚いた顔をする圭介さん。
 響夜さんは手を放して、彼を解放する。

「だけどな圭介、仲間を思う気持ちは俺達も同じだ。さっきは紫龍にケンカを売るなって言ったけど、もしもお前が殴り込みをかけたら、そのときは七星総出で駆けつける。だろ、お前ら!」

 響夜さんの言葉に、みんな多少戸惑いながらも頷きあってる。
 さらにフォローするように、晴義先輩が言う。

「仲間に何かあったら、絶対に助けに行く。これは七星の総意だ。だけどさっきも言った通り、まだ戦う時じゃない。だから頼む、今は耐えてくれ」
「──っ! そんな、頭上げてください。すみません、俺が間違っていました!」

 頭を下げる晴義さんに、圭介くんも頭を下げる。

「確かに響夜さんならきっと、同じことを言います。響夜さんがどうして姐さんを代理にしたか、今分かりました。総長代理は、姐さんしかいません!」
「お、俺も。姐さんの言うことなら従います」
「だよな。響夜さんの留守は、俺達で守っていくんだ!」

 すごい。さっきまでバラバラだったのに、響夜さんが出てきたとたん、一つにまとまっていってる。
 これが七星をまとめる、響夜さんの力。
 感心しているとその響夜さんが、私にだけ聞こえるように言ってくる。

「もう大丈夫みたいだな。美子、後は頼めるか?」
(え、もう引っ込んじゃうんですか?)
「あんまり長いこと憑依してて、美子の体に影響あったらマズイだろ。この前だって、ぶっ倒れたし」

 あれはお昼を抜いてたせいもあるけど、憑依のせいで体にどんな影響が出るか、ハッキリとはわかってない。
 言われた通り響夜さんには引っ込んでもらって、私が表に出てくる。

「そ、それではみなさん。響夜さんが戻ってくるまでの間一丸になって、七星を守っていきましょう」
「「おおーっ!」」

 こうして私の、総長代理としての挨拶は終わった。
 ほとんど響夜さん任せになっちゃったけど、まとまったのならこれでいいよね。

【響夜side】

 真っ暗な真夜中。
 少し前から雨が降りだしたようで、外から聞こえてくる雨と雷の音が聞こえてくる。
 そんな中俺は美子の家の、アイツの部屋の前の廊下で、足を崩して座っていた。

 何をするわけでもなく、本当にただ座ったまま。朝が来るのを待つだけ。
 正直退屈でしかたねーけど、これも幽霊の宿命なんだろうな。
 美子にとり憑いているせいで、アイツから離れることができない。
 オマケに幽霊は眠ることもできないらしく、おかげで最近は毎晩こうして、美子の部屋の前で時が過ぎるのを静かに待っている。

 どうやら美子から離れられる距離が決まっているらしく、ある程度以上離れそうとすると見えない壁にはばまれるように先にはいけなくなるんだ。
 ギリギリ部屋の外に出られたのは幸いだった。
 寝ているところなんて見られたくないだろうし、風呂やトイレのときも、できるだけ離れている。
 けど美子にとってはきっと、それでもしんどいだろうなあ。

 ……巻き込んでしまって、悪かったと思ってる。
 とり憑いてしまったこともそうだけど、総長代理なんて頼んだことも。

 けど断ってもよかったのに引き受けるなんて、アイツはとんだお人好しだ。
 きっと困ってるやつを、放っておけないんだろうな。
 初めて見たときから、アイツはそういえやつだったからな。

 美子は知らないだろうけど、実は俺は前から、美子のことを知っていた。
 最初に気づいたのは、朝学校に行く途中。
 道の真ん中で何かに向かって、しゃべってるのを見たときだ。

『そう……そんなことが……。辛い思いをしたんだね。元気だして。私でよければ、話し相手くらいにはなるから』

 1人でぶつぶつしゃべっていて、変なやつだと思ったけど。
 それから度々、同じように何かに話しかけてる美子を、俺は見かけた。
 なんとなく気になって、拓也が同じクラスっていうから聞いたことがあったけど、そのとき返ってきた答えは。

『え、美子ですか? アイツはその……昔から、変なものが見えるって言ってるんです。ちょっと変わったやつですけど、でも、悪いやつじゃありません。……美子と、何かあったんですか?』

 興味本意で聞いただけだったけど拓也のやつ、やけに動揺してたっけ。
 今ならわかるけどたぶんアイツは美子のことを……そういう風に、思ってるんだろうな。

 気持ちはわかる。美子は、いいやつだ。
 あのとき美子がいったい何に話しかけていたのか、今ならわかる。
 今朝俺も会った、真夏とか言う事故で亡くなった、真夏とかいう女の子の幽霊。
 きっとあの子が寂しくないよう、話しかけているんだ。

 その結果周りから変に思われても、放っておけないのが美子だ。
 変な話だけど、生霊になった俺を見つけてくれたのが、美子でよかった。
 けど反面、申し訳ない気持ちもある。
 俺はアイツに世話になってばかりで、何一つ返せてない。
 くそ、我ながら情けねー。
 もしも体に戻れたとして、こんな俺が七星を引っ張っていくなんて、できるのか……。

 ──ゴオォォォォン!

「きゃあっ!」

 なんだ?
 考え事をしていたら大きな雷の音がして、部屋の中からは美子の悲鳴が聞こえてきた。

「どうした美子?」

 俺は立ち上がると、美子の部屋へと入っていく。
 ドアは閉じたままだったけど、生霊の俺にはそんなものは関係無い。
 すり抜けて中に入れるんだから、セキュリティもなにもあったもんじゃないさ。
 中に入ると寝巻き姿の美子がベッドの上からこっちを見ていて、目が合った。

「美子、何があった?」
「きょ、響夜さん。すみません、大きな声を出して。雷の音に、驚いただけです」

 ペコペコと頭を下げたけど、何もなかったのならよかった。
 けどホッとしたのも束の間。
 暗い部屋の中でうっすらと見える美子の顔を見ると、胸の奥がざわつきだした。
 少し前までは顔を隠すくらい伸びていた前髪が、今ではバッサリなくなっていて。素顔がよく見える。

 俺は正直、今まで女の顔の良し悪しなんてよくわからなかったけど、これは……。
 生まれて初めて誰かの顔を、キレイだと感じてる。
 顔の造作だけを言っているんじゃない。
 よく見えるようになった透き通った目が、まるで美子の無垢な心を表しているみたいに澄んでいて、どうしようもなく引き込まれてしまうんだ。
 ……キレイだ。
 それ以外の感情を忘れて、見とれていると……。

「響夜さん……あの、響夜さん!」
「──っ! 悪い、ついボーッとしてた」

 ヤバいな。
 話しかけてるのにも気づかずに、見とれていた。

「それで、何の話をしてたんだ?」 
「ええと……よろしければ、今夜はこのまま、部屋で寝ませんか?」
「……は?」

 一瞬、幻聴が聞こえたかと思った。
 いきなり何を言い出すんだコイツは?

「それは、なんだ? 雷が怖いから、いてほしいってことか?」
「ち、違います。さっきはたまたま大きく鳴ったのでビックリしましたけど、いつもはべつに怖がったりしませんから。ほ、本当ですよ」
「わかったわかった。けど、それならなんで?」
「響夜さんをずっと、廊下に追い出したままというのが申し訳なくて。廊下じゃ、眠りにくいですよね」
「いや、どうやら幽霊は、眠ることができないらしい」

 どうせ眠れないんだから、廊下で座ったり横になったりしてればいい。
 だが、美子の部屋で寝るというのは……。

「軽々しく、男を部屋に入れるなよな。……今の俺は触ろうと思えば、お前に触れるんだぞ。何かされるとは、思わないのか?」

 少し脅かすように、声を低くする。
 怖がらせたらかわいそうだけど、コイツは無防備すぎだ。
 少しくらいきつめに言っておいた方がいい。
 だというのに……。

「何かって……そ、それはホラー映画であるような、寝ているところに幽霊が乗っかってきて首をしめる等の、呪い的なことですか!?」
「なんでそうなる!? 俺は悪霊じゃないんだ。首なんてしめるか!」
「なら大丈夫じゃないですか。いつまでも外に出しておくのは、やっぱり悪いですよ」

 キョトンとした顔で言う美子に、思わず脱力する。
 こんなときまで、俺に気を使うなっての。
 呆れた俺は美子の頭に手を近づけて、触れるのをいいことに、デコピンを一発食らわせてやった。
「あうっ!?」
「気持ちだけ受け取っとく。けど男相手に二度と軽々しく、そんなことを言うんじゃねーよ」
「は、はい?」

 返事はしたものの、たぶんわかってねーな。
 だいたい寝ている美子と同じ部屋にいるなんて、俺の方が無理だ。
 まったく、無防備すぎだろ。少しは自分の魅力を、自覚しろっての。
 特に髪を切ったこれからは、言い寄ってくる男が増えるだろうしな。

「いっそ悪い虫がつかないように、憑依して蹴散らすか?」
「虫? 憑依? いったい、何の話をしているんですか?」

 案の定美子は全然わかってないみたいだから、やっぱり心配だ。
 けどこんな風に考えてしまうのは、本当に無防備な美子を心配しているだけなのか、それとも別の思いがあるのか。
 答えは、俺にも分からなかった。
 七星の総長代理になってから数日が経って。
 私の生活は、以前とはガラリと変わった。
 例えば……。

「あの、皆元さん。七星の響夜さんと付き合ってたっていうのは本当?」

 朝教室に入ったとたん、数人の女子がやってきて私を囲む。
 またこのパターンだ。

 ここ数日で、響夜さんが亡くなったのはデマだったって、ちゃんと知れわたったみたいだけど。
 どこをどう伝わったのか、私が七星の総長代理になったことや、響夜さんの彼女という話までかなりの人が知ってて、度々こんな感じの質問をされることがあるの。
 今聞いてきた女子達はみんな目が血走っていて、圧がすごい。
 否定することを願っているのが、ひしひしと伝わってきたけど、私は……。

「ほ、本当です。付き合っていたというか……今も付き合っています」
「──っ! マジなの? 嘘言ってるんじゃないでしょうね?」

 信じられないという顔で、集まった女子達はみんな、顔を見合わせている。
 無理もないよね。私みたいな地味女が、響夜さんと付き合ってるだなんて、おかしな話だもの。
 なのに、私の後ろで事態を見守っている生霊の響夜さんは。

「嘘は言っちゃいないな。どこに行くにも、こうして付き合ってるわけだからな」

 って言ってるけど、そういう意味じゃありませんからー!
 女子達は納得してなさそうな顔で睨んできてるし、どうしよう?
 と、思っていたら。

「お前ら、あんまり皆元をいじめんなよな」
「美子ちゃん、困ってるなら、力貸すよ」

 って言ってきたのは、クラスの男子達。
 するとさっきまで私に問い詰めていた女子達が、表情を曇らせる。

「なによアンタたち。今まで皆元さんのこと相手にしてなかったのに、イメチェンしたとたん手のひら返し?」
「ち、ちげーよ。だいたい皆元は、響夜先輩の彼女なんだろ」
「そうそう。困ってるみたいだから助けようとおもっただけで、決していいとこ見せようとか、そういうわけじゃないからね」

 私の様子をチラチラうかがう男子達。
 そっか。響夜さんの彼女だから、助けてくれたんだ。
 本当は彼女じゃないから良心が痛んだけど、同時に響夜さんの彼女設定が、男子にも女子にも影響を与えていることにビックリする。

「響夜さんの影響力って、すごいですね」
「野郎共はどう考えても、俺より美子目当てだろうけど。まあ、そういうことにしておくか」

 けど男子と女子がバチバチしてて、今にもケンカが始まっちゃいそう。
 だけどそのとき。

「お前ら、うちの総長代理になにか用か?」
「あ、拓也くん」

 割って入ってきたのは、登校してきた拓也くん。
 彼は集まっていた男子と女子に言い放つ。

「知らないやつもいるかもしれねーから言っとくけど、美子は響夜さんの名代、七星のトップだ。余計なちょっかいかけたり、色目使うんじゃねーぞ」
「わ、私たちは、ちょっと気になったから聞いただけよね」
「お、俺達も、なあ」

 集まっていたみんなは、そそくさと解散していく。
 さすが七星の幹部。あっという間に場を収めちゃった。

「拓也がいれば女子も何とかしてくれるし、虫除けにもなってくれるか」
「え、どういうことですか?」

 響夜さんが言っていることの意味がわからずに首をかしげていると、拓弥くんが聞いてくる。

「響夜さん、そこにいるのか? なんだって?」

 すると響夜さん、「美子のことは卓也に任せたと、言っておいてくれ」って言って、私はそれをそのまま伝える。

「……了解です響夜さん。美子のことは、俺に任せてください」
「あ、さらに付け加えてもう一つ。『俺が常に側にいるから、お前も変な気は起こすな』って言ってるんだけど……」
「──っ! わかってますよ。……響夜さんの命令なら、逆らえねーか」

 伝言の意味はよく分からなかったけど、素直にきこうとしてる拓弥くんがちょっとかわいい。
 拓弥くんって本当に、響夜さんを信頼してるんだろうなあ。

「そういえば、ちょっと聞いていいかな?」
「ん、どうした?」
「拓弥くんっていったい何がきっかけで、七星に入ったの?」

 実はずっと、気になっていたんだよね。
 昔いっしょに遊んでいた頃は暴走族に入るイメージなんてなかったのに、今では七星の幹部なんだもの。
 すると拓弥くんは複雑そうな顔をしながら、「あ~」って声をもらす。

「きっかけな……なんて言うか、自分を変えたかったんだよ。俺は、友達が困ってても助けられない意気地なしだったから、七星に入れば、少しは変えられるかなーって思って。まあ、あんまり変わってねーんだけどな」

 そう言って、切なげに笑う拓弥くん。
 友達が困ってても、助けられなかった? それがいったい誰のことを、いつのことを言っているのかは分からない。
 だけど……。

「そんなことないよ。少なくとも私はさっき、拓弥くんのおかげで助かったんだから」
「──っ! 本当か?」
「うん。拓弥くん、本当に逞しくなったって、私は思う。昔友達となにかあったかは知らないけど、もしもその人がまた困ってたらそのときは、力になってあげられるよ。拓弥くんなら、きっとできるよ」
「ああ……美子にそう言ってもらえたら、心強えーよ」

 さっきはアンニュイな感じだった拓弥くんだけど。よかった、元気出たみたい。
 さっきまでより、笑顔が晴れやかだ。
 するといったい何を思ったのか、彼は私の手をそっと握った。

「え? た、拓弥くん?」
「俺、何かあったら絶対に美子のこと守るよ。今度は必ず」

 握られた手から、熱が伝わってくる。
 拓弥くん、どうしちゃったんだろう? 
 さっき響夜さんに私のことを任せられたから、張り切っているのかなあ?
 けど、熱い目で見つめられると、なんだか……。

「美子、体を借りる…………拓弥、俺がいるってことを、忘れるなよ」
「──っ! 響夜さんか!?」

 響夜さんが憑依して、それに気づいた拓弥くんが手を放す。
 た、助かった。
 幸い誰も気づいていないみたいだけど、教室の真ん中で手を握られてたら、恥ずかしいものね。

 響夜さんは一言だけ言って離れて、拓弥くんは残念そうな顔で、小声で言う。

「響夜さん、まるで保護者だな……なあ美子。お前は正直なところ、響夜さんの彼女って設定、どう思ってるんだ?」
「え? うーん、最初は戸惑ったけど、七星をまとめるためには、いい方法なのかな」
「いや、そうじゃなくてな……もし本当に響夜さんが彼氏だったら、美子は嬉しいか?」
「ふえ? か、彼氏?」

 そんなこと言われても。
 カレカノ設定はあくまで七星をまとめるため。
 総長代理になるべく作った設定であって、本当だったら嬉しいかどうかなんて、考えたことがなかった。
 もしも私と響夜さんが、そういう関係だったら……。

「俺は、嬉しいかもな。少なくともとり憑いたのが美子で、よかったって思ってるよ」
「響夜さん!?」

 話を聞いていた響夜さんが割り込んできて、思わず声が出る。
 と、とり憑いたのが私でよかったって……。

「も、もう。からかわないでくださいよー」

 あんなの冗談。でなかったら、社交辞令で言ったに決まってる。
 なのに………。
 どうしてこんなに、胸がドキドキするんだろう?

 結局響夜さんに気の聞いた返事をするわけでも、拓弥くんの質問に答えられもしないまま、朝のホームルームが始まってしまった。
 ……響夜さんも拓弥くんも、どうしてあんなことを言ったのかなあ?

 総長代理をはじめてから変わったのは、教室の中だけじゃない。
 むしろこっちが本題。

 あれから放課後になると毎日、七星のアジトに足を運ぶようになったの。
 だって仮にも総長代理なんだから、顔を出さないのはちょっとね。
 幸い今までは学校が終わっても家に帰るだけだったから、何も問題はないんだけど……。

「悪いね美子ちゃん、付き合わせちゃって」
「いえ、大丈夫ですから」

 アジトの奥で、直也先輩と話をする。
 近くには拓弥くんと晴義先輩もいて、七星の幹部が全員そろってる。

「しかしこう毎日顔を出すとなると、不都合もあるだろう。できることは何でもするから、遠慮なく言ってくれ」
「そうそう。無理しなくても、友達と遊びに行ったりとか、していいからね」

 晴義先輩と直也先輩はそう言ってるけど……そもそも私、友達がいないのですよね。
 拓弥くんはそれをわかっているから、なんて声をかければいいか分からないみたいで、気まずそうな顔をしてる。
 そして響夜さんを見ると、無言でこっちを見ている。
 四六時中一緒なんだから、きっと友達がいないってバレてるよね。

 隠してもしょうがないけど、なんだかとても恥ずかしい。
 だって求心力があってみんなに慕われてる響夜さんとは、正反対なんだもの。
 私と響夜さんと比べるなんておこがましいけど、近くにいると余計に、情けなさを痛感しちゃうなあ。

 するとその時、倉庫のシャッターが開いた。

「晴義さん! うちのやつらがまた、紫龍のやつらに襲われました!」
「またか!? それで、大丈夫なのか?」
「はい。ケガは大したことありません。ほら、入ってこい」

 七星のメンバー数人が、アジトの中に入ってくる。
 中には腕や顔などに傷がある人もいて、すごく痛そう!

「大変、すぐに手当てしないと」
「これくらい平気ですよ。メンバーで固まっておいてよかった。姐さんの指示のおかげでです」

 実は前に、私がみんなに言ったの。
 狙われてるなら、みんなできるだけ固まって動いた方がいいんじゃないかって。
 小学生のときに時々やってた、集団下校を参考にしたの。
 大勢でいるとそれだけで手を出しにくくなるし、何かあったときも協力すれば逃げやすいしね。
 けどやっぱり、悔しそうにしている人もいる。

「ちくしょう、アイツらめ。指示さえあれば、返り討ちにしてやったのに」

 みんなやられっぱなしだと、悔しいみたい。
 私は何かあったら心配だから、絡まれても逃げるよう言っていて、みんなちゃんとそれを守ってくれてるけど、大丈夫かなあ?

 すると響夜さんが「体借りるぞ」って、私の中に入ってきた。
 このパターンにも、だいぶ慣れたよ……。

「悪いなお前ら、辛抱させちまって。けど俺……響夜を仲間外れにして、暴れても仕方ないだろう。響夜が帰ってきたら、奴らに目にもの見せてやろーぜ」
「姐さん……わかってますよ。なあお前ら!」
「ああ、もちろんだ!」

 響夜さんの発言で、さっきまで沈んでいた空気が熱を帯びていく。
 響夜さん、本当にすごいや。
 すると響夜さん、憑依するのをやめて、主導権が私に戻る。

「それじゃあ、今は手当てを。治療をしますから、ケガしてる人は並んでください」

 私は救急箱を取ってくると、ケガをしている人を順番に診ていく。
 前に保険委員をやってたから、治療には慣れているの。

「姐さんに手当てしてもらえるなんて、うらやましい。俺もケガしてりゃよかった」
「バカ、不謹慎だぞ……けど、気持ちわかるかも」

 みんなが何か言ってるけど、それより治療治療。
 幸い本当にケガは大したことはなくて、救急箱だけで手当てをすませることができた。
 治療を終えると、晴義さんが声をかけてくる。

「悪いね、手伝ってもらって」
「いえ、私にできるのなんて、これくらいですから」 
「そんなことないよ。僕達も、それにきっと響夜も、君にはとても感謝してるよ」
「そ、そうでしょうか? あの、それと少し気になってるんですけど……私と響夜さんが時々入れ替わってること、みなさんに変に思われていませんか?」

 さっきも途中で響夜さんに変わってもらったけど、実は気になっていたんだよね。
 私と響夜さんじゃ、口調も態度も全然違うし。
 晴義先輩達なら事情を知っているけど、そうでない人達にはどう映っているんだろうって。

「気にしてなくていい。どちらの美子さんも、評判いいから」
「よかった……って、あれ? それって、答えになってないんじゃ? 晴義先輩、誤魔化していませんか?」
「……そんなことより。うちのやつらが狙われてるのを見て分かると思うけど、紫龍のやつらは手段を選ばない。今はバレていないかもしれないけど、もしも美子さんが総長代理をやってることが奴らに知られたら、やつらは君を狙ってくる可能性もある」

 それは、たしかに。
 私は実際に襲われたことはないけど、もしそうなったらと思うと、背筋がゾクゾクする。

「だからこれからは、拓弥に送り迎えを任せようと思う。アイツも君を守れるならって、やる気になってるし」
「拓弥くんが?」

 拓弥くんなら帰る方向も一緒だからちょうどいいし、頼もしいかも。
 安心していると、話を聞いていた響夜さんがボソリと言う。

「なにかあったら、俺もいるから。そのときは体を借りるかもしれねーけど、美子だけは絶対守る」
「は、はい」

 響夜さんの言葉に、ボッと顔が熱くなる。
 なんだろう。最近響夜さんと話してると、時々変になる気がする。

「けどすみません。私のために、わざわざ気を回してもらって」
「元々こっちが巻き込んだんだから、これくらい当然だよ。それに今の七星にとって君は、なくてはならない存在だからね」
「わかってます。響夜さんの言葉を伝えられるのは、私だけですから」
「まあ、確かにそれもあるんだけど……気づいていないかい? 響夜だけじゃなく美子さん自身が、今の七星に必要不可欠だってことを」
「え、私がですか!?」

 そんなまさか。
 私が七星のために、何かできてるとは思えませんけど。
 なのに響夜さんまで、「無自覚かよ」って言ってくる。

「血の気の多いうちの連中を抑え込んでくれてるのは、響夜の言葉だ。けど行き場を失った気持ちを抱えてるアイツらの心をケアしてあげてるのは、君なんだよ。君は治療するとき、一人一人から話を聞いてあげてるだろ」
「あれは、少しでもみなさんのことを知ろうって思っただけで」
「それが好評なんだよ。カウンセラーみたいなものかな。話を聞いてもらってると、心が癒される。もしかしたら美子さんには、そういう才能があるのかもね」

 信じられない。
 今まで友達すらいなかった私が、誰かの心を癒すって。

「ここまで考えて、総長代理をお願いしたわけじゃなかったんだけどね。巻き込んだ僕が言うのもなんだけど、響夜を見ることができたのが美子さんでよかったって、今なら思うよ」
「同感だな。もしも代理を任せたのが美子以外だったら、絶対ここまで上手くいかなかっただろうな」

 響夜さんまで言ってきたけど。
 か、過大評価ですよ~。

「まあわざわざ治療されたいって言うやつも出てきたのは、いきすぎだけどね。アイツらにはわざとケガするのだけはやめとけって、言っとかないとね」

 冗談っぽく言いながら、苦笑する晴義先輩。
 普段はクールな印象だけど、こんな風に笑うんだ。

「私、もっと頑張ります。みんなの役に立てるように」
「なに言ってるの。もう十分頑張ってるよ。みんな美子さんのことを、仲間って認めてるしね」
「仲間……」

 晴義先輩の言葉が、ジーンと胸に響く。
 そんな風に言ってもらえるなんて、思わなかった。
 成り行きでやることになった総長代理だけど、七星のみんなと過ごす時間は私にとっても、意外と心地いい。
 そんなみんなの力になっているのなら、嬉しいな。
 けど……。

「美子は頑張ってるよ。それに比べて俺は……」

 響夜さんが遠い目をしたのが、少し気になった。

 次の日の放課後。
 この日私はアジトじゃなくて、響夜さんの入院している病院に、お見舞いに来ていた。

 紫龍の動きを警戒して、ボディーガードを引き受けてくれた拓弥くん。それにもちろん、生霊の響夜さんと一緒に。

 今日は響夜さんに、もう一度病院に行ってくれないかって、お願いされたの。

「悪いな。付き合わせちまって」
「いえ、大丈夫です。今日こそ体に、戻れるといいですね」

 あれからだいぶ経ったけど、響夜さんの体は眠ったまま。
 幽体がここにいるんだから仕方ないけど、一向に戻る気配がないの。
 だから試しにもう一度、生霊の響夜さんを連れていったら、何か変わるんじゃないかって思って来たんだけど……。

 以前も来た病室では、響夜さんが横になって目を閉じている。
 そして生霊の響夜さんもいて。こうしてみると、まるで双子みたい。
 生霊の方の響夜さんは自分の体に近づいて、中に入れないかやってみる。
 すると、その様子を視ることができない拓弥くんが聞いていきた。

「響夜さん、どうしてる?」
「今、体に戻れないか試してる。私に憑依する時と同じで、体を重ねたら戻れるかもしれないけど……」

 けど、戻る気配はない。
 あれこれ頑張っていた響夜さんだったけど、疲れたように体から離れる。

「くそ、ダメか。美子になら憑依できるのに、どうしてできないんだ?」
「たぶん私に憑依できるのは、とり憑いたことで結び付きが強くなっているからだと思います」
「結び付き……それなら元の体の方が、強いんじゃないのか? 本来俺はこっちにいる方が、自然なんだろ?」
「それは……ごめんなさい、それは私にもわかりません」

 私は霊感体質だけど、なんでも知ってるわけじゃないの。

「響夜さん、戻れないのか?」
「うん。まだダメみたい。脳も心臓も、ちゃんと動いてるのに」
「そういえばこの前美子、心に問題があると、幽体が体に戻れないことがあるとか言ってたっけ? 後で思い出したんだけど、似たような話を昔本で読んだんだよな」
「え、そうなの?」
「ああ。幽霊とか魂について調べたことがあって、幽体離脱をして体に戻れないケースってのが、書いてあった」

 響夜さんが、今まさにそんな状態。
 もしかしたらその本に、解決するためのヒントが書いてなかったかなあ。
 というか……。

「拓弥くん、幽霊のことを、調べたことあったんだね」
「んんっ! む、昔たまたま、読んだことがあるってだけだよ!」

 なぜか顔を赤くしながら、顔を背ける拓弥くん。
 響夜さんは、「なるほど、理由は美子か」って言ってるけど、どう言うことだろう?
 けどそれよりも……。

「それで、戻れないのにはどんな理由があるの?」
「ああ。本で読んだだけで、今思えば胡散臭い本だったから本当かはわからねーけど。たしか戻りたくない理由があるからって、書いてあった」
「戻りたくない理由?」
「ああ。例えばスゲー辛い目にあってて、体に戻っても苦しいだけだから戻ろうとしないとか。そういうやつだったかな。けど響夜さんは……」

 戻りたくないどころか、今日もこうして戻る方法を探している。
 そうなると、なにか別の要因があるのか、拓弥くんの読んだ本が間違ってるのか。
 だけど……。

「戻りたくない? 俺が?」

 眉間にシワを寄せて、何か真剣に考えてるみたい。

「響夜さん、きっと本が間違っていただけですって。何か方法はあるはずですから、探していきましょう」
「ああ……そうだな」

 響夜さんが体に戻りたくないなんて、そんなことあるはずないもの。
 けど、話していると……。

「おや、誰か先客がいるのかな?」

 病室の扉が開いて、誰かが顔をのぞかせている。
 それは高校生くらいの、知らない男の人だったけど……。

「宗士さん!」

 名前を呼んだのは、響夜さん。
 響夜さんの病室を訪ねて来たくらいだから、お知り合いかな?
 すると私の視線に気づいて、響夜さんが言う。

「この人は宗士さん。俺が総長になる少し前まで、七星の副総長をしていた人だ」
「七星の副総長さん?」

 驚いて思わず声に出して言うと、宗士さんはピクリと反応する。

「へえー。君、俺のこと知ってるの?」
「えーと……響夜さんから聞いたことがあって。七星の副総長の、宗士さんですよね」
「え、宗士さんって、先代総長時代に活躍したっていう、あの副総長の宗士さん?」

 声を上げて、宗士さんを凝視する拓弥くん。
 拓弥くんが七星に入ったのは響夜さんが総長になった後だから、どうやら面識はなかったみたい。

「元、副総長だけどな。そういう君達は、響夜の知り合い?」
「俺、今七星の切り込み隊長やってる、森原拓弥と言います。それで、こっちは……」
「み、皆元美子です。一応、七星の総長代理を任されています」
「総長代理?」

 驚いたように私を見て、すぐにいぶかしげに目を細める。
 ど、どうしたんだろう? もしかしていきなり総長代理なんて言ったもんだから、疑われているのかも?

「そうか、代理かあ。今の七星は、そんなことになっているのか。響夜が大変なことになったって聞いて様子を見に来たけど、まさか君みたいな子が総長代理とはね。驚いたよ」
「す、すみません。いけなかったでしょうか?」
「いいや。そもそも引退した俺が、口出しするようなことじゃないだろ。七星はもう、響夜や君たちの居場所なんだから」

 よかった。
 怒られたらどうしようって心配したけど、ホッと胸をなでおろす。

「宗士さんは蓮さん……先代総長の親友で、俺もよく世話になった。怖い人じゃないから、警戒しなくていいぞ」

 響夜さんが、耳元で教えてくれる。
 私は響夜さんがトップってイメージしかなかったけど、響夜さんにもお世話になった先輩がいたなんて、不思議な感じがするなあ。

「それにしても。響夜がこんなことになるなんてな。このバカ、いつまで寝てるんだか」
「きっと今に、目を醒ますはずです。そのために、頑張っていますから」
「そうしてもらわないと困るぞ。七星は、蓮が作ったチーム。引き継いだからには、しっかり守ってもらわないとな。でなきゃ、蓮が悲しむ」

 そう言って、どこか遠い目をする宗士さん。
 そういえば……。
「先代総長の蓮さんって、今はどうしているんですか?」

 それは何の気なしに聞いた質問。
 だけどその瞬間、宗士さんの顔が強ばり、拓弥くんと響夜さんもギョッとしたように私を見た。
 え? 私何か、おかしなこと言った?

「……アンタ、響夜から聞いてないのか?」
「美子……先代総長の蓮さんは、病気で亡くなったんだ」
「えっ……」

 時が止まったようにシーンと静まりかえる病室。
 そんな中響夜さんが私にだけ聞こえる声で「悪い、言っておくべきだった」って、静かに言う。

 私、無神経なことを言ってしまったんじゃ。
 すると、拓弥くんが口を開く。

「まだ俺が七星に入る前の話だけど。蓮さんに病気が見つかって、それで響夜さんが後を継いだんだ。けど、蓮さんはそのまま……」
「そんなことが……ごめんなさい。私、何も知らなくて」
「いや、いい。知らなくったって、仕方ないさ。七星はもう、あの頃とは違うんだもんな」

 気遣うように言う宗士さん。
 けどどこか寂しそうに見えるのは、私の気のせい?

「アンタが総長代理だって言うなら、七星のことよろしくな。蓮が作ったチームを大事にしてやってくれ」

 それだけ言うと、宗士さんは用があるからと言って帰っていった。

 宗士さんに、蓮さんかあ。
 私、まだ全然七星のことを知らなかったんだなあ。
 けど仮にも総長代理なんだから、これじゃあダメだよね。
 後で響夜さんに、昔の七星について聞いてみよう。
 けど、それにしても……。 

 チラリと響夜さんを見ると、まるで何かを考えてるように黙ってしまっている。
 響夜さん、いつも伝えたいことがあるときは私に憑依してしゃべるのに、今日はそれをしなかったなあ。

 憑依される感覚に完全に慣れたわけじゃないけど、相手がお世話になった先輩なら、構わなかったのに。
 宗士さんの去った扉を、無言で見つめている。響夜さん。
 その目がなんだか切なそうなのが、妙に気になった。


 病院を出て、拓弥くんに家まで送ってもらう。
 拓弥くんとは家の前で別れて、響夜さんと2人になったけど、お互い何もしゃべらず。
 ようやく口を開いたのは、リビングに入ってからだった。

「響夜さん、さっきはすみませんでした。宗士さんに、失礼なことを聞いてしまって」
「いや、あれはちゃんと話してなかった俺が悪い。蓮さん達のことまで、言う必要はないって思ってた」

 確かに響夜さんが戻ってくるまでの代わりなら、それでいいのかも。
 さっきはたまたま宗士さんと会ったけど、普段なら知らなくても問題はないし。
 言わなくても、問題はない……。

 そうですよね……私は、部外者ですから。
 込み入った話までする必要はないですよね。
 けど、それでも……。

「私は、知っておきたいです。引き受けた以上は、七星のことを、ちゃんと知りたいですよ」
「美子……なんと言うか、真面目だな。社会科見学で行く場所のこととか、しっかり予習するタイプだろ」

 それは否定しません。
 けど今回は真面目とか、そういうのとは違う気がする。
 響夜さんが大切にしているもののことを、もっとよく知りたい。
 それは私の、純粋にやりたいことのような気がするから。

「話すよ……蓮さんって人が七星の先代総長、創設者だってのは知ってるよな。七星は元々、蓮さんと今日会った宗士さんの、2人で立ち上げたチームなんだ」
「最初は、2人だったんですか?」
「ああ。けど次第に仲間が増えていって、いつしか大所帯。俺は比較的最初の頃のメンバーだけどな。蓮さんに誘われて、七星に入ったんだ」

 聞けば響夜さん、親御さんとの仲がよくないみたいで。
 荒れていたところに、蓮さんから声をかけられたのだという。
 そういえば、響夜さんのご両親って、どんな人なんだろう?
 お見舞いに来た様子もないけど……。

「あの、響夜さんのお父さんやお母さんって……」
「会社の社長と重役。たぶん美子も知ってる、割とデケー会社。昔から放任主義で、俺がどこで何をしようが知らん顔してるような人達だ」

 何の気なしに言ってるみたいだけど、そっちも全然知らなかった。
 結構な時間一緒にいるのに、私は響夜さんのこと、なんにも知らなかったんだなあ。

「話を戻すぞ。俺はその後七星の幹部になって、蓮さんの下で活動してた。晴義や直也も入って、七星はどんどん大きくなっていったんだけど……あるとき急に、蓮さんが倒れたんだ。すぐに晴義の家の病院で見てもらったけど、聞いたこと無いような難しい病名を告げられたよ」

 表情を曇らせる響夜さんを見て、私まで胸が苦しくなる。
 話を聞いてると、蓮さんは響夜さんにとって、憧れのお兄さんみたいな存在だったように思える。
 そんな蓮さんに病気が見つかったんだもの。きっとすごくショックだったんだろうなあ。

「それで蓮さんは、これ以上チームに残るのが難しいって言って、総長を引退。俺が2代目として、七星を引っ張っていくことになったんだ。けど……」
「けど、なんですか?」
「今でも時々思うよ。俺に蓮さんの代わりなんて、つとまるのかってな」
「えっ?」

 初めて聞いた、響夜さんの弱気な発言。
 いつだって力強く、生霊なのに生命力に溢れたイメージしかなかったのに。

「そんな! 七星をまとめられるのは、響夜さんしかいないじゃないですか」
「いや……。実は2代目を決めるとき、もう一人候補がいたんだ。副総長だった、宗士さんがな」
「あ……」

 そうだ、副総長で初期からのメンバーで、蓮さんの親友だった宗士さんなら、確かに名前が挙がってもおかしくないかも。

「あれ? だけど宗士さんはもう、七星を辞めてますよね」
「ああ。宗士さんは蓮さんと一緒に、チームを抜けたんだ。蓮さんがいないなら、総長になっても仕方がない。後は俺達の好きにやれって言ってな」

 それで、辞めちゃったの?
 きっとそれだけ宗士さんにとって、蓮さんの存在が大きかったんだろうなあ……。

「けど、七星は俺じゃなくて、やっぱり宗士さんが継ぐべきだったのかもしれない」
「なにを言っているんですか? わたしはまだ宗士さんのことをよく知りませんけど、それでも響夜さんが総長になったことが、間違いだったとは思えません」
「事故にあって昏睡状態になって、生霊になってさまよっていてもか?」
「──っ!」

 愁いを帯びた目を見て、ズキリと胸が痛んだ。

「紫龍のやつらに絡まれて、その途中で走ってきた車にはねられて目を醒まさないとか、情けねーよ。蓮さんや宗士さんなら、こんなヘマはしなかったかだろうな」

 響夜さん、私が思っていた以上に、今の状況を気にしているのかも。
 だけどわからない。
 私の体に憑依した状態でもあんなに強かった響夜さんが、どうしてそんなことになったんだろう?

「あの、走ってきた車にはねられたって、どういう状況だったんですか? 紫龍の人に、突き飛ばされたとか?」
「……話しても、面白くないと思うぞ」
「お、面白いとか、面白くないとかじゃありません。響夜さんがどうしてこんなことになったのか。私はちゃんと知りたいんです。私にとり憑いているんですから、これくらい教えてください……や、宿り主命令です!」

 響夜さんの弱味になることを言って、普段なら絶対やらないような駆け引きで聞き出そうとする。
 私ってば、なにをやってるんだろう?
 だけど、真相をちゃんと知りたい。
 響夜さんが悩んでいるなら、力になりたいから。
 響夜さんはらしくないことを言った私に驚いていたけど、フッと笑った。

「宿り主命令か……まさか美子が、そんなことを言い出すなんてな。総長代理になって、ちょっと変わったか?」
「す、すみません。ですが……」
「分かったよ。巻きこんだ以上、美子には聞く権利があるからな」

 響夜さんは怒るわけでもなく、ゆっくりと語りはじめる。

「あの日、学校から1人で帰っていたら、紫龍のやつらが10人くらいで襲ってきたんだ」
「10人!? こっちは、響夜さん1人だったんですよね。いくらなんでも、そんなにいたのならどうしようも……」
「ん? それくらいなら、何とでもできる。現に向こうは、全滅寸前になってたしな」

 サラッと言ってのける響夜さんは、嘘を言ってるようには見えなかった。
 私の体を借りるのではなく元の体だったらもっと強いだろうとは思っていたけど、まだまだ認識が甘かったのかも。
 けど、それならどうして……。

「……子供」
「え?」
「近くを歩いていた子供が、俺達のケンカに巻き込まれたんだ。紫龍のやつらが襲ってきた場所ってのが、人通りのある通りでな。普通ならそんな場所でケンカを仕掛けるなんてありえねーんだけど、不意をつこうとしたんだろうな。所構わず襲ってきやがった」
「そんな。関係無いその子が、ケガするかもしれないのに」
「ああ。その子は小学校低学年くらいの、男の子でな。暴れる紫龍のやつが、近くにいたその子を突き飛ばして、車道に転がって。そこにトラックが突っ込んできた……」

 暗い顔で語る響夜さん。
 あれ、でもそれって……。

「ひょっとして響夜さん、その男の子をかばって……」
「……ああ。そいつを助けようと俺も道路に出て、トラックにガシャンだ。その子供が無事だったのが、不幸中の幸いだったけどな」

 直接紫龍の人達にやられたわけじゃなかったんだ。
 けど、それなら……。

「だったら響夜さんは、なにも間違ったことなんてしてないじゃないですか! そりゃあ、自ら危険に飛び出しはしましたけど、響夜さんが動かなかったらその子がどうなっていたか」
「けど結果俺は眠って、チームにもお前にも、迷惑をかけてる」
「それでもです!」

 私は言いながら、響夜さんの手を握る。
 実体を持たない生霊なためか、触った感じは生きてる人間よりも冷たい。
 普段の私なら生霊とはいえ、男性の手を握るなんて絶対にできないけど、今は響夜さんに触れたかった。

「美子……?」
「七星の総長は、響夜さんです。事故にあったとき、もし何もしてなかったら、その子は亡くなっていたかもしれないけど、それを助けたんです。それに響夜さんだって、今は眠っていますけど必ず帰ってきますから」
「帰ってくるって……今のままじゃ、それがいつになるかはわからないし、本当にできるかも……」
「だったら、今ここで約束してください。絶対に目を醒まして、あのときの行動が正しかったって証明するって。そしたら、胸を張って総長様だって、名乗れますよね」

 我ながらメチャクチャな理屈。
 だけど私は、七星の総長は響夜さんしかいないって思ってるから。

 だって昏睡状態の今だって七星の人達は、響夜さんのことを信じてついてきてるんですよ。
 先代総長の蓮さんを思う気持ちも、宗士さんをおしたくなる気持ちもわかりますけど、みんなきっと響夜さんが引っ張っているから、七星にいるんです。

 彼らと過ごした時間はそんなに長くはないけど、それだけはわかる。
 だから自分が総長でなければよかったなんて、言わないでください。