「彼女に一体何をした!」

 アベリアを抱き寄せ、フェイズが周囲の光の粒を睨みつける。すると、光の粒から声が聞こえてきた。

——フフフ、ハハハ
——何をしたってフェイズ、わかっているだろう、我ら精霊による試験さ

(精霊による、試験?)

 どうやら周囲を漂っている光は精霊のようだ。驚いてキョロキョロと辺りを見渡すと、フェイズはアベリアを抱きしめたまま怒ったように言った。

「試験はまだしないはずだろう、約束が違う!」

——我らの気分が変わった。それだけだ
——それに良いではないか、合格だ、喜べ
——我らはその女が気に入った
——女、フェイズと結婚しろ
——精霊に気に入られたら最後、その言葉を無視することはできない、拒否権はない
——フェイズもその女を気に入っているのだろう、何も問題ない

 周囲からいろいろな声が聞こえてくる。アベリアが精霊の言葉に驚いてフェイズを見上げると、フェイズが顔を赤らめて慌てたように言う。

「な、何を勝手に……!」

——それではな、また会おうフェイズの婚約者、未来の妻となる者よ
——フフフ、ハハハハハ

 そうして、周囲をただよっていた光の粒は消えた。呆然とするアベリアと、顔を真っ赤にしたままアベリアを抱きしめているフェイズがその場に取り残される。

「フェイズ様、今のは、一体……?」
「う、今のは……ってすまない!」

 アベリアを抱きしめていたことに気がついたフェイズは慌ててアベリアから離れる。そして、ふうっと大きく息を吐いた。

(フェイズ様に抱きしめられてしまった。まだ、抱きしめられた腕の感触が残ってるし、温かい……)

 さっきまでの状況を思い出してアベリアも顔を赤くする。そしてそんなアベリアを見てフェイズは両目を見開いて口元を手で覆った。

「あ、あの、嫌ではなかったので大丈夫です」
「……嫌ではなかった?本当に?」
「はい」
「それなら、よかった」

 アベリアが微笑むのを見て、フェイズは顔を赤くしながら目線を逸らす。