アベリアがフェイズの屋敷で暮らすようになって半年が経った。

(ここに来てもう半年……何だかあっという間だわ)

 屋敷の庭園を一人で散歩していたアベリアは、ほうっと息を吐いて美しく咲く花々を見つめた。庭園は綺麗に整えられ、季節によって色とりどりの花々が咲き誇っている。

 シャルロッテはアベリアに懐いていていつもアベリアにくっついているが、今日は令嬢としての振る舞いやダンスのレッスンのために実家へ出掛けている。フェイズは仕事に行ったためアベリアは久々に一人の時間を過ごしていた。

 冷酷非道と噂されていた婚約者のフェイズは実際は家族思いの優しい人で、今ではアベリアのことも大切に思ってくれているようだ。最初はアベリアの悪役令嬢という噂を信じて冷たい態度をとっていたが、誤解が解けてからはシャルロッテと共にアベリアにとって力強い味方となってくれている。
 最初の頃は目を合わせてくれなかったが、最近では目を合わせて会話をしてくれるようになった。むしろ、フェイズの方がアベリアをじっと見つめることの方が多く、アベリアにとってはそれが少しこそばゆく感じられるのだった。

(屋敷の人たちもみんな優しい人ばかりだし、シャルロッテは可愛らしいし、フェイズ様は……)

 普段はあまり表情に変化が見られないが、時折アベリアに対しても優しい表情を見せてくれる。その表情の変化に、アベリアの心臓が高鳴ることも多くなった。
 それに、舞踏会で義妹のイザベラの嘘から自分を守ってくれたフェイズの姿は勇ましく、まるで自分のことを本当に大切に思ってくれているようにさえ思えたのだ。

(フェイズ様のことを知れば知るほど惹かれていってしまう。フェイズ様が望む白い結婚でいるのならば、好きになってはいけないのに……)

 胸が少し痛む。フェイズに恋焦がれてしまっても、それはきっと叶わぬ恋なのだ。