「お姉さまったら酷い!私のドレスをわざと破くなんて!」

 アベリアがフェイズの屋敷で生活するようになってから数ヶ月後。とある屋敷で舞踏会が開かれ、アベリアは久々に義妹であるイザベラに会った。そして、冒頭のセリフを言われたのである。
 破けたドレスの裾を庇うようにして床にしゃがみ込み、潤んだ瞳でアベリアを見上げるイザベラ。その隣にはいつかの日もイザベラを擁護する取り巻き令息のヴェンがいた。

(またこれなの……)

 毎度の光景にうんざりする。フェイズの所へ来てから実家ともイザベラとも疎遠になっていたが、相変わらずイザベラとヴェンはアベリアを悪者に仕立て上げ、周囲の人々はヒソヒソと話をしている。

「またあの悪役令嬢?精霊公爵と婚約したとは聞いていたけれど、あれならさもありなんね」
「冷酷非道な精霊公爵にピッタリじゃない」

 クスクスと笑い声さえ聞こえてくる。自分のことはどう言われても構わない、慣れたものだ。だが、フェイズのことまで好き勝手に言われるのは納得がいかない。思わず口を開きかけた瞬間、フワッと肩に手がかかり、横を見るとフェイズがいた。

「ひっ!噂をすれば精霊公爵だ!」

 小さく悲鳴を上げるもの、恐れ慄いて息を呑むものなど反応は様々だ。

「俺の婚約者がどうかしたのか?」

 フェイズが冷え切った視線でイザベラとヴェンを見ると、二人はヒッと怯える。だが、イザベラはそれでもめげずにアベリアを指差す。

「お、義姉様が、私のドレスをわざと破ったんです!ヴェン様からいただいた美しいこのドレスを羨ましく思ったのでしょう、それにしたって酷いわ」
「そうだ、いくら義妹が自分よりも可愛らしくて可憐だからって妬んでいじめるだなんて最低だ!」

 イザベラの口撃にヴェンも息を吹き返したように追撃する。

(ああ、こんなくだらないことにフェイズ様を巻き込んでしまったわ)

 アベリアが俯くと、フェイズはそれを見てアベリアの肩をグッと引き寄せた。