「お姉さま!お姉さま!」

 アベリアがフェイズの屋敷に来てから、フェイズの妹シャルロッテはアベリアにべったりだ。人から疎まれ遠ざけされて来てずっと友達がいなかったシャルロッテは、人との接し方がうまくない。それでも、ぐいぐいくるシャルロッテを嫌な顔ひとつせずアベリアは仲良く楽しそうに接していた。

(二人とも楽しそうだな。俺の付け入る隙はどこにもない、か)

 目の前で楽しそうにキャッキャとはしゃぐ二人を眺めながら、フェイズは机に頬杖をついて静かにため息をつく。

「それで、どうして二人は俺の部屋で遊んでいるんだ?仕事の邪魔になるんだが」

 フェイズがそう言うと、シャルロッテはアベリアの腕に自分の腕を絡ませながらムッとしてフェイズを見た。

「お兄さまがお姉さまにちっとも近寄ろうとしないからでしょ!いい加減、仲良くしてください!」

 シャルロッテがそう言うと、アベリアは苦笑しながらフェイズを見る。

(いや、どう見ても困ってるだろ)

 アベリアが屋敷を訪れた日以来、アベリアとちゃんと話をしようしようと思っているのに全くできていない。話しかけようとはするのだが、アベリアを目の前にするとどうも緊張して言葉が出てこない。アベリアもそんなフェイズにはあまり近寄ろうとせず、シャルロッテとばかり行動していた。

「お二人はいずれ夫婦になるのですよ!ちゃんと会話をして歩み寄らないとダメです!というわけで、今からお二人でお使いに行ってきてください」
「「は?!」」

 アベリアとフェイズは同時に疑問を口にする。そして、驚き二人で顔を見合わせた。だが、アベリアと目が合ったフェイズは咄嗟に目を逸らし、アベリアもまた悲しそうに瞳を伏せた。

「ああ、もう!焦ったい!とにかく、私の好きなお菓子を街まで行って買って来てください。私の好きなお菓子は何かお兄さまはわかってらっしゃいますよね。全部買って来てくださいね」

 シャルロッテからの注文に、フェイズは慌ててメモをとる。

「お姉さま、お兄さまは女性に、というか人に慣れていないのであんなですけれど、悪い人ではないのです。どうか、気長に付き合ってあげてくださいませね」

 キュルンとした瞳に可愛らしい声音でそう言われてしまえば、アベリアも嫌とは言えない。

「わかったわ」

 アベリアの返事にシャルロッテは満面の笑みを浮かべた。