「ミステリー? 面白そう!」

「八代、好きだと思う」



文化祭が終わって1週間。終わってから初めての星谷くんが図書当番の日。ようやく彼から本をおすすめしてもらえて、気持ちがほくほくする。

ふたりでちゃんと話をしたのが随分と久しぶりに感じるのもあって、余計にだ。

文化祭期間中は結局1日目の朝しかきちんと話せなかったし、片付けの時も打ち上げでも、ふたりで話すタイミングがなかったから。


私の好きな日常が戻ってきた、という感じだ。



「一緒に帰ってもいーい?」

「じゃあそれ読んで待ってて」

「はーい」



一緒に帰ることを許可してくれて、自然と口角が上がる。気がつかれないうちに椅子に座って本を開きながら、こっそり彼を盗み見た。


気になることがひとつある。それは、先生とのこと。


もちろん、後夜祭でのことは言っていない。星谷くんと先生が、図書室でふたりきりでいるところを見たってこと。いや、話しているのを聞いた、の方が正しいかもしれない。

あの後先生と何かあったのか、進展したのか、そればかりが気になる。だけど星谷くんからは何も読み取れないので、帰り道になんとなく聞いてみよう、と。

そう決意してページを捲り、本の中の世界に没頭した。





──「文化祭、楽しかったね」

「うん」



帰り道、星谷くんとふたり。自然な感じで文化祭の話に誘導する。この段階ではやっぱり、星谷くんの感情が動いている様子は見受けられない。


これはもう、ストレートに聞くしかないか。



「ねぇ、星谷くん」

「ん?」

「……文化祭で、先生と話せた?」

「え?」



〝先生〟というワードを出せば、ちょっとだけ大きくなった星谷くんの声。いけない、直球すぎたかも。



「あ、いや、浴衣見せたかな〜って」

「あぁ……さすがに見せてないけど」

「けど……?」



今度はさっきとは違って、だんだんと小さくなっていく声。それから明らかに、声のトーンが下がったのがわかった。それを聞いてなんとなく理解した。


星谷くんにとってあの時間は、そんなふうに眉が下がるような時間だったということを。