「俺たち、いなくて良かったじゃんね」
「ほんとですよ」
日曜日の昼間、雲ひとつない青空の下。きゃっきゃ楽しそうにコーヒーカップに乗っているあーちゃんと仁先輩を、少し離れたベンチから見守る私と由真先輩。
今日はそう、4人で遊びに行くという日の当日で。あーちゃんの希望により、遊園地と動物園が併設された人気施設にやってきた。
待ち合わせをした最初は緊張していたあーちゃんだけれど、ここに着いて乗り物に乗っているうちにいつものテンションになり、今では仁先輩とふたりで楽しそうに爆速でぐるぐると回っている。
そして私は私でそんなふたりのことを、由真先輩とあーだこーだ言いながら見ているのが楽しかったりする。
このままいけばたぶん、今日中に付き合っちゃうんじゃないかな。わぁ、私が楽しみだ。ふたりの前では顔に出ちゃわないようにしないと。
「もう俺たちはあっち行っちゃう?」
ふわふわした気持ちであーちゃんたちを眺めていれば、隣からそう聞かれたので先輩の方を見た。先輩は首をこてんと傾けながら、どこか向こうを指さしている。
「あっち?」
「動物の方」
「え、行きたい!」
「じゃあ行こ」
「えっ、勝手にいいんですか」
「うん。連絡入れとくから大丈夫」
先輩はすぐにスマホを取り出して、何やら文字を打つ。それから、「送ったから行こ」と立ち上がった。どうやらもう仁先輩にメッセージを送ったらしい。早い。
私も立ち上がって隣に並んだところで、先輩が歩き始める。先輩はいつもこうやって、私のペースや歩幅に合わせて歩いてくれるなぁと、何度目かのそれを思う。
「わーい、楽しみ」
「ひお、迷子なんないでね」
「も〜、さすがに大丈夫ですよ」
先輩ったら。また私を妹さんと重ねているな。
「先輩、動物好きなの?」
「好き好き。実は遊園地より動物見る方が楽しみだった」
「えっ、私もです!」
「同じ」と先輩が笑ったのを見て、胸の端っこの方でほっとした。
今日の先輩は、いつもの先輩だから。
今日の先輩は、あの日と同じ顔を1度もしないから。