あーちゃんと八田くんに背中を押されて教室から出てきたのはいいものの、今は放課後。用事が無ければ3年生である先輩はきっともう帰っている時間だ。
それでも自分の目で見つけたくて、4階建ての校舎の中を上から探した。
3年生の階の廊下も頑張って通ったし、ちゃんと校内の隅々まで見たつもりだけれど、やっぱり先輩は見つからなくて。
さすがに帰っちゃったよね、と思いながら、最後に昇降口へ向かう。これでいなかったら諦めて、メッセージでも送ってみようかな、と。
ポケットからスマホを取り出して、半ばもう諦めつつ3年生の下駄箱を覗いた。
「あ……」
そしたら、視界に飛び込んできたのだ。見覚えのあるリュックに、ミルクティー色が。
これは紛れもなく奇跡だ、と。すぐに声をかけたかった。だけど、それはできなかった。
だってその隣には、別のもうひとりがいたから。おそらく私よりも身長の小さな、上履きの色から察するに1年生の女の子が。
見たことがないし聞いたこともない、知らない子。先輩とどんな関係なのかももちろんわからない。
下駄箱に隠れて、そーっとふたりの様子を盗み見る。親しそうに喋っているから、きっと知り合いなのだろう。べつにそれはよかった。それはよかったのだけれど。
女の子の顔がちらりと見えた時、胸がざわついた。くりんとした瞳に、小さな口。
『リス、というか小動物みたいだよね、ひおって』と、前に先輩に言われた言葉が頭を過ぎる。
胸の真ん中が、さっきよりもチクチクした。
『そんなことしてたら、その先輩誰かにとられちゃうんじゃないのって』
それからこんな時に、まるでトドメのように、さっき教室でした会話を思い出す。
──あぁ、私は、馬鹿だ。
「ゆ、由真先輩……!」