体育祭まであと数日というところまで来た。八田くんが一緒に練習してくれたおかげで、リレーも順調である。あとは晴れることを願うだけ。
なのだけれど──
「八代さん」
「……」
「おーい」
「……」
「八代 陽織さーん」
「わっ……!」
「わっ、じゃないよ。早く書いてくんない?」
今日は八田くんと日直の日。隣に座っている八田くんに肩をつんつんとされて、思わず驚いてしまった。まぁ、私の手がずっと止まっているからなのだけれど。
「ごめんごめん、考え事してて。八田くん先帰ってていいよ」
「そういう意味で言ったんじゃない。なら俺が書くから貸して」
「いや、書く書く、急いで書きます!」
八田くんが今日1日黒板を消してくれたので、日誌は私が書くと言ったものの、全然進んでいない。結果、八田くんの放課後の時間を奪ってしまっている状態である。
さすがにやばいので急いで手を動かす。日中ぼーっとしてた自分を恨んだ。だってほとんど埋まっていないんだもの。
だけどこんなふうになってしまったのは、最近ずっと考えてしまうことがあるからだ。
「なんかあったの?」
「え」
「めちゃくちゃぼーっとしてたから」
八田くんの眉間に皺が寄る。だけど大丈夫。これはたぶん、不機嫌なやつではない。本当に心配して聞いてくれてるやつだ。
だったら、相談してみようかな……。
「……あの、じゃあ聞きたいことがあるんだけど」
「うん」
「えっと……」
「なに」
「……好きでもない相手に、〝好きって言ったら好きになってくれる?〟的なことを冗談で言ってくる男のひとの心理ってなんだと思う……?」
「待って待って、もしかして結構重い系?」
「いや、普通に軽い気持ちで答えていただいて……」
そう、それはあの日の由真先輩のことだ。