「それ、面白い?」
「うん、このひとの本はどれも面白いよ」
「へぇ、私も星谷くんにおすすめしてもらおうかな」
「ほんと? これ返す時一緒に行く?」
「うそ、冗談」
放課後の教室。前の席からこちらに振り返って、「ひとりで行ってきな〜」と私の読んでいる本の表紙を眺めるのは、クラスメイトで仲良しのあーちゃん。彼女は高校でできた最初の友達である。
「なーんだ、残念」
「ほんとに言ってる? だって好きなひととはなるべくふたりでいたいでしょ」
「たしかにそうかもだけど、あーちゃんならいいよ」
今は私とあーちゃんしかいないこの教室の中でも、星谷くんの話をするには、お互い自然とちょっとだけ声が小さくなる。
私が星谷くんのことを好きなのを知っているのは、あーちゃんぐらいだから。
「とか言って、私が星谷くん好きになったらどうすんの」
「それは……仕方ないけどライバルだね」
「大丈夫大丈夫。ならないから」
「ないない」と連呼するあーちゃん。そう言ってくれて、内心ほっとした。
だってあーちゃん、いわゆる肉食系女子だし、可愛いし、胸大きいし、いつもいい匂いするし。本気で星谷くんにアプローチしたら、もしかしたらころんって落ちちゃうかもしれない。
「で、どうなの最近」
「どうって?」
「本おすすめしてもらって、たまに一緒に帰るだけ?」
「あー……うん、そうだねぇ」
「そっかー」と、何回目かのやり取り。
あーちゃんにももちろん、星谷くんの好きなひとについては話していない。好きなひとがいるってことも、言わない方がいい気がして教えなかった。
だからあーちゃんの目には、ただなんの進展もない恋をしているように見えているのだと思う。
実際それで、間違いはないのだけれど。
「陽織さーあ?」
「うん?」
「あんたかわいーんだから、違う男に目向けたらすーぐ彼氏できるよ」
「べつに彼氏が欲しいわけじゃないもんね」
可愛いあーちゃんにそう言ってもらえるのは、お世辞でも嬉しい。
だけど私が欲しいのは、星谷くんの気持ちだけだ。