それは、ただのいつもの昼休み。おすすめしてもらった本について、星谷くんと話をしている時だった。

振られてから1ヶ月は経っただろうか。あれからも今までとは変わらず、星谷くんの当番の日に図書室に行ったり、教室でもたまに話したりして。

もうだいぶ、前と同じように話すことにも慣れてきていた。



「ねぇねぇ、この本に出てくる水族館のモデルって、隣駅の水族館だよね?」

「うん、そう」

「へーえ、近いね。行ってみたいなー……」



この小説の中に出てくる水族館は特別有名ってわけではないけれど、この辺に住んでいるひとが行くなら大体そこで、うちの学校の生徒もよく放課後デートなどで利用することが多い。

だから、なんの気なしに発した言葉だった。深い意味もなく、単純に小説の中に出てくる場所に行ってみたいなぁ、という気持ちだけだった。


なのに。



「じゃあ、行く?」

「…………え?」



聞き間違いかと思って、変な間が空く。だって星谷くんがそんなこと言うはずないもの。



「あ……いや、俺もいつか行きたいなと思ってて……」



だけど次の言葉を聞いて、私の耳に間違いはなかったことを知る。そうすれば急に心拍数が上がって、勝手に顔も熱くなっていった。


え、え、なんで? どうして? いや、深い意味なんてないか。

それになんだとしたって、その誘いに対する私の答えはひとつしかない。



「えっ、あ、行く! 星谷くんがいいなら……行きたいっ……!」



こんなチャンス、逃すわけにはいかない。飛びつきすぎたかなとも思ったけれど、私の気持ちなんてとっくにバレているのだから今更恥ずかしくはない。



「じゃあ……今日空いてる?」

「空いてる!」

「なら、放課後行こうか」

「う、うん!」



口角が上がってしまいそうなのを、ぐっと堪える。どういう気持ちで誘ってくれたのかはわからないけれど、私と一緒にいてもいいっていう証のようなものだ。


しかもこれっていわゆるデートだよね? いや、星谷くんからしたら全くそんなことはないのだけれど、ひっそりそう思う分にはいいよね……?



「楽しみにしてるね」

「うん」



これが同じ気持ちだったら、どれほど嬉しくなるのだろう、と。想像しようとして、やめた。

それよりも、今の嬉しい気持ちを大事にしたかった。