カイルさんから聞いたところによると、なんと私は一昼夜も眠っていたらしい。初めて魔法を使ったり、ヴィクターの魔素を吸収したりでくたびれてたのかな?
というわけで、ミミズ魔獣を倒してからすでに一日近くが経っていた。ちょうど今から王都に帰還するのだそうだ。
戻ってきたヴィクターと合流し、私は彼の懐の奥にこっそり隠れた。外へ出て馬に騎乗する。
「騎士団の皆様、本当にありがとうございました!」
「どうぞ、お帰りもお気をつけて!」
「リック、お前も助けに来てくれてありがとな!」
周囲の様子が見えなくても、村人さんたちの熱気と興奮は充分に伝わってきた。照れくさそうに返事をするリックくんの声も聞こえる。
口々にお礼を言われながら、私たちはベルガ村を後にした。
「……シーナ。もういいぞ」
「ぷぁっ」
ぷはっと顔を出し、大きく息を吸い込んだ。うぅん、新鮮な空気っておいしー。
きょろきょろと周りを見回せば、騎士団のみんなが馬上から嬉しそうに手を振ってくれた。リックくんが他のみんなを追い越し、ヴィクターの隣に並ぶ。
「シーナ先輩! 村人は全員無事だったんす。オレの家族も元気そのもので、ホント安心しましたっ」
「ぱうぅ、ぽぇあ〜」
(よかったね、リックくん!)
ほのぼのと笑い合う私たちを、ヴィクターは目を細めて見守ってくれていた。カイルさんがすかさず馬を駆って前に出る。
「あれぇ、ヴィクター。リックには妬かないの?」
「黙れ阿呆」
ヴィクターが間髪入れずに吐き捨てた。
笑いながら首をすくめるカイルさんを見て、私もあきれてしまう。
(もお、カイルさんってば冗談ばっかり)
ヴィクターが焼き餅なんて焼くわけないじゃん。ねえ?
緊迫していた行きと違い、帰路は終始なごやかだった。私の起こした炎の奇跡についてやら、ミミズ魔獣がいかに気持ち悪かったかなど、みんな楽しげにおしゃべりする。
並足で馬を走らせ、日が落ちる前に王都の騎士団本部に到着した。
「それじゃ、お疲れ様〜」
「皆、ご苦労だった」
団長と副団長から労われ、団員さんたちは元気よく挨拶して解散していく。
ヴィクターとカイルさんは本部に残り、てきぱきと事務処理を始めた。私は執務机の端にちょこんと座り、しっぽを振って二人を応援する。
「はい、シーナちゃん。オレの非常食のクッキーだよ」
「ぱぇぱぇ〜」
ありがたくかじっている間に、無事に仕事が終わったらしい。ヴィクターがせいせいした顔で帰り支度を始めた。
また私を懐に入れ、徒歩で本部から出る。
しばらく進んだところで、突然ピタリと足を止めた。
「……なぜお前も付いてくる。カイル」
「いやぁ、ヴィクター一人じゃあしらうの大変だろうと思ってさ。だって、絶対待ち構えてるよ? 全財産を賭けてもいい」
「ぽえ?」
ん、何のこと?
首を伸ばす私を、ヴィクターが大きな手で胸元に押し込める。ああハイ、まだ隠れてなくっちゃね?
大人しく服の中に潜んでいるうちに、ほどなくお屋敷に到着した。
そして途端に、私は先ほどのカイルさんの言葉を理解した。
「――ヴィクター殿下ァッ!! あんまり、あんまりですよこのわたしを置いていくなどとぉーっ!! どうしてどうして誘ってくださらなかったのですかぁっ。ああシーナ・ルー様もさぞやお心細かったはずでしょう、従順たる下僕であるこのわたしがお側におらず初めての遠征魔獣討伐」
「ええい黙れやかましいっ!!」
ヴィクターの特大級の雷が落ちて、私はすうっと目を閉じる。耐えろ私、いくらなんでも寝すぎだからね……?
必死で心を落ち着けていると、ヴィクターがはっとしたように「シーナ!」と呼んだ。
私を服の中から出して、ぎゅっと胸に抱き締めてくれる。温かさと包み込まれる安心感に、みるみる元気が戻ってきた。
「ぱぇぱぁ、ぱぅぅ〜」
(ヴィクター、もう大丈夫だよ)
抱き締められてるせいで声がこもる。
小さな手で騎士服を叩き、ぴこぴこ耳を振ってみせれば、ヴィクターは安堵したように息を吐いた。そっと私を離し、眉根を寄せて覗き込む。
「……すまん」
いいよいいよ。
元凶(キースさん)も、あっちでカイルさんに首絞めの刑にあっておりますし……。
「ううう、申し訳ありませんでした。シーナ・ルー様……」
「ホントだよ」
カイルさんが冷たくキースさんを睨む。
ヴィクターもまだ少し落ち込んでいて、しょんぼりする男二人がなんだか面白い。ちょっぴり可愛らしい気までしてきて、下を向いて笑いをこらえた。
「ほら、シーナちゃんが笑ってるよ。反省したならとっとと夕食を済ませて、ヴィクターの部屋で今回の報告会を開こうよ」
「報告会?……ということは、何か進展があったのですね!」
顔を輝かせるキースさんに、カイルさんは意地悪く微笑んでみせた。
「そそ。進展も進展――もんのすごい大事件があったんだよ」
というわけで、ミミズ魔獣を倒してからすでに一日近くが経っていた。ちょうど今から王都に帰還するのだそうだ。
戻ってきたヴィクターと合流し、私は彼の懐の奥にこっそり隠れた。外へ出て馬に騎乗する。
「騎士団の皆様、本当にありがとうございました!」
「どうぞ、お帰りもお気をつけて!」
「リック、お前も助けに来てくれてありがとな!」
周囲の様子が見えなくても、村人さんたちの熱気と興奮は充分に伝わってきた。照れくさそうに返事をするリックくんの声も聞こえる。
口々にお礼を言われながら、私たちはベルガ村を後にした。
「……シーナ。もういいぞ」
「ぷぁっ」
ぷはっと顔を出し、大きく息を吸い込んだ。うぅん、新鮮な空気っておいしー。
きょろきょろと周りを見回せば、騎士団のみんなが馬上から嬉しそうに手を振ってくれた。リックくんが他のみんなを追い越し、ヴィクターの隣に並ぶ。
「シーナ先輩! 村人は全員無事だったんす。オレの家族も元気そのもので、ホント安心しましたっ」
「ぱうぅ、ぽぇあ〜」
(よかったね、リックくん!)
ほのぼのと笑い合う私たちを、ヴィクターは目を細めて見守ってくれていた。カイルさんがすかさず馬を駆って前に出る。
「あれぇ、ヴィクター。リックには妬かないの?」
「黙れ阿呆」
ヴィクターが間髪入れずに吐き捨てた。
笑いながら首をすくめるカイルさんを見て、私もあきれてしまう。
(もお、カイルさんってば冗談ばっかり)
ヴィクターが焼き餅なんて焼くわけないじゃん。ねえ?
緊迫していた行きと違い、帰路は終始なごやかだった。私の起こした炎の奇跡についてやら、ミミズ魔獣がいかに気持ち悪かったかなど、みんな楽しげにおしゃべりする。
並足で馬を走らせ、日が落ちる前に王都の騎士団本部に到着した。
「それじゃ、お疲れ様〜」
「皆、ご苦労だった」
団長と副団長から労われ、団員さんたちは元気よく挨拶して解散していく。
ヴィクターとカイルさんは本部に残り、てきぱきと事務処理を始めた。私は執務机の端にちょこんと座り、しっぽを振って二人を応援する。
「はい、シーナちゃん。オレの非常食のクッキーだよ」
「ぱぇぱぇ〜」
ありがたくかじっている間に、無事に仕事が終わったらしい。ヴィクターがせいせいした顔で帰り支度を始めた。
また私を懐に入れ、徒歩で本部から出る。
しばらく進んだところで、突然ピタリと足を止めた。
「……なぜお前も付いてくる。カイル」
「いやぁ、ヴィクター一人じゃあしらうの大変だろうと思ってさ。だって、絶対待ち構えてるよ? 全財産を賭けてもいい」
「ぽえ?」
ん、何のこと?
首を伸ばす私を、ヴィクターが大きな手で胸元に押し込める。ああハイ、まだ隠れてなくっちゃね?
大人しく服の中に潜んでいるうちに、ほどなくお屋敷に到着した。
そして途端に、私は先ほどのカイルさんの言葉を理解した。
「――ヴィクター殿下ァッ!! あんまり、あんまりですよこのわたしを置いていくなどとぉーっ!! どうしてどうして誘ってくださらなかったのですかぁっ。ああシーナ・ルー様もさぞやお心細かったはずでしょう、従順たる下僕であるこのわたしがお側におらず初めての遠征魔獣討伐」
「ええい黙れやかましいっ!!」
ヴィクターの特大級の雷が落ちて、私はすうっと目を閉じる。耐えろ私、いくらなんでも寝すぎだからね……?
必死で心を落ち着けていると、ヴィクターがはっとしたように「シーナ!」と呼んだ。
私を服の中から出して、ぎゅっと胸に抱き締めてくれる。温かさと包み込まれる安心感に、みるみる元気が戻ってきた。
「ぱぇぱぁ、ぱぅぅ〜」
(ヴィクター、もう大丈夫だよ)
抱き締められてるせいで声がこもる。
小さな手で騎士服を叩き、ぴこぴこ耳を振ってみせれば、ヴィクターは安堵したように息を吐いた。そっと私を離し、眉根を寄せて覗き込む。
「……すまん」
いいよいいよ。
元凶(キースさん)も、あっちでカイルさんに首絞めの刑にあっておりますし……。
「ううう、申し訳ありませんでした。シーナ・ルー様……」
「ホントだよ」
カイルさんが冷たくキースさんを睨む。
ヴィクターもまだ少し落ち込んでいて、しょんぼりする男二人がなんだか面白い。ちょっぴり可愛らしい気までしてきて、下を向いて笑いをこらえた。
「ほら、シーナちゃんが笑ってるよ。反省したならとっとと夕食を済ませて、ヴィクターの部屋で今回の報告会を開こうよ」
「報告会?……ということは、何か進展があったのですね!」
顔を輝かせるキースさんに、カイルさんは意地悪く微笑んでみせた。
「そそ。進展も進展――もんのすごい大事件があったんだよ」