「は?」
「なんだと……?」
キースさんの爆弾発言に、ヴィクターとカイルさんが凍りつく。
キースさんは驚く二人に目もくれず、私だけをじっと見つめ続ける。その鋭い眼光に、心臓がバクバクと暴れ出した。
(どうしよう……。本物のシーナちゃんじゃないって知られたら、もう誰も私を助けてくれないかもしれない……!)
だけど。
キースさん、それからカイルさん。うろうろとさまよった視線が、最後にヴィクターのところでぴたりと止まる。
ヴィクターもまた、緋色の瞳で私を見ていた。静かで揺るぎなく、まっすぐな瞳。
(……だけど、ここを乗り越えなきゃ。そうじゃなきゃ、きっと何も始まらない!)
ヴィクターを挑むように睨みつけてから、腹をくくってキースさんに向き直った。
そうして、しっかりと首を上下に動かして肯定する。
「ぱえっ!」
「……っ。やはり……!」
キースさんの顔をが歪む。
ヴィクターはためていた息をふうっと吐くと、「どういうことだ」と低くうめいた。
「……どういうことも、何も。シーナ・ルー様はヴィクター殿下の『人間に化けたのか』という問いは否定されたのに、わたしの『人間の姿をしていたのか』という問いには頷かれた。……つまりは、そういうことですよ」
「え、え? どゆこと? ごめん、キース。思考が全然ついていかないんだけど」
カイルさんがおろおろと私たちを見比べる。
キースさんが苦笑して肩をすくめた。
「つまり、シーナ・ルー様が否定されたのは『化けた』という部分のみということです。……そうですね?」
「ぱえっ」
こっくりと頷けば、キースさんは満足気な笑みを浮かべた。
「まだわからないことだらけですが、わたしの予想も含めて簡単にまとめてみましょう。――シーナ・ルー様は人間の女性である。月の女神ルーナ様のお力により、今は聖獣シーナ・ルー様の姿を取られている……」
うんうん!
「何らかの理由により、シーナ・ルー様はヴィクター殿下の助けを必要とされている。……もしやこれは、月の女神ルーナ様のご意思も関わっていらっしゃるのでしょうか?」
そうそう!
勢いよく頷き返すと、男たちがざわめいた。
せわしなく顔を見合わせて、一斉に口を開く。
「ちょちょちょっ、月の女神様ぁ!? な、なんでよりによって、信心もクソもないヴィクターなんかに!?」
「言葉が下品ですよ、カイル。……ああ、ですが本当に何故なのでしょう! 口も足グセも態度も悪く、真心・良心・思いやり、そんな言葉は俺の辞書には存在しない!なヴィクター殿下などよりも、このわたしの方が禁欲的で献身的で汚れなき心とあふれんばかりの愛を持って」
「えぇいやかましいっ! シーナ、今すぐ人間に戻れ! 助けろと言うならば、まずはお前の口から事情を説明してみせろっ」
「ごるぁヴィクター殿下ァッ! 女神様の御使いであられるシーナ・ルー様に、なんですかその口のききようはァッ!」
「そうだぞヴィクター! 女神様以前に、女の子相手にそれはない! そんなだから人生で一度もモテたことがないんだぞ!?」
わあわあ騒ぐ男たちを、私は黙りこくって見守った。
そうか、人生で一度もモテたことがな……や、まあそれは置いといて。人間に戻れと言われても、今は無理だよ。
(それに……)
人間に戻ったら、魔素の塊であるヴィクターには近寄れない。よって、私たちが直接会話をすることは不可能。
困り果てて天を仰ぐ。
頭上にある大きな窓に、ぽつぽつと雫が跳ねていた。……ん?
机の上から書棚をつたい、えっさほいさと窓の前まで移動する。一生懸命に背伸びして外を見ると、雨が激しく木々を打ちつけていた。うわあ、最悪。
(この雨が続くなら、今夜はきっと月が見えないな)
ため息をつき、まだ激しく言い争っている男たちを振り向いた。ねえねえ、私ってば月がないとね――……
「代われるものならばお前達が代われば良いだろう! 誰が好き好んで、わけのわからん人助けなどっ」
「だからシーナちゃんはお前がいいって言ってんだろ!? 可愛い女の子になったシーナちゃんから、『片時も離さないで、ずっと側にいてほしいのっ』なぁんて愛の告白をされておきながらお前という奴はっ」
「はああああッ!? ヴィクター殿下ァッ、不誠実、不誠実ですよこの女たらしッ! ふしだら! 破廉恥人間! 最低よォッ!!」
「…………」
どうしよう。
とんでもない誤解が爆誕しとる。
茫然と立ち尽くす間にも、男たちはどんどんヒートアップしていく。
「何が愛の告白だ! こんな毛玉に懸想されて嬉しいわけがなかろう!」
「へええ、じゃあ断るんだ!? いいよそれなら、無事にシーナちゃんの頼み事を叶えた暁には、オレがシーナちゃんを引き取ってあげるよ! お前はそれで構わないんだよなヴィクター!?」
「すっ……、好きにすればいいだろう!」
「ああっほら、今一瞬詰まったよね!?」
「抜け駆けは許しませんよ、カイル! 無論わたしも参戦いたします! この身を賭して誠心誠意お仕えするとお約束いたしますともー!」
ぎゃあぎゃあぎゃあ。
(……えっと)
一体どこから手を付けるべきなのか。
わからないほどにこんがらがってしまったが、どうやらこれだけは確かなようだ。
(すごい。私ってば人生初のモテ期到来だね!)
……ただし、もふもふ毛玉枠として。
きっとそんな但し書きが付くに違いない。嬉しくなーい。
「なんだと……?」
キースさんの爆弾発言に、ヴィクターとカイルさんが凍りつく。
キースさんは驚く二人に目もくれず、私だけをじっと見つめ続ける。その鋭い眼光に、心臓がバクバクと暴れ出した。
(どうしよう……。本物のシーナちゃんじゃないって知られたら、もう誰も私を助けてくれないかもしれない……!)
だけど。
キースさん、それからカイルさん。うろうろとさまよった視線が、最後にヴィクターのところでぴたりと止まる。
ヴィクターもまた、緋色の瞳で私を見ていた。静かで揺るぎなく、まっすぐな瞳。
(……だけど、ここを乗り越えなきゃ。そうじゃなきゃ、きっと何も始まらない!)
ヴィクターを挑むように睨みつけてから、腹をくくってキースさんに向き直った。
そうして、しっかりと首を上下に動かして肯定する。
「ぱえっ!」
「……っ。やはり……!」
キースさんの顔をが歪む。
ヴィクターはためていた息をふうっと吐くと、「どういうことだ」と低くうめいた。
「……どういうことも、何も。シーナ・ルー様はヴィクター殿下の『人間に化けたのか』という問いは否定されたのに、わたしの『人間の姿をしていたのか』という問いには頷かれた。……つまりは、そういうことですよ」
「え、え? どゆこと? ごめん、キース。思考が全然ついていかないんだけど」
カイルさんがおろおろと私たちを見比べる。
キースさんが苦笑して肩をすくめた。
「つまり、シーナ・ルー様が否定されたのは『化けた』という部分のみということです。……そうですね?」
「ぱえっ」
こっくりと頷けば、キースさんは満足気な笑みを浮かべた。
「まだわからないことだらけですが、わたしの予想も含めて簡単にまとめてみましょう。――シーナ・ルー様は人間の女性である。月の女神ルーナ様のお力により、今は聖獣シーナ・ルー様の姿を取られている……」
うんうん!
「何らかの理由により、シーナ・ルー様はヴィクター殿下の助けを必要とされている。……もしやこれは、月の女神ルーナ様のご意思も関わっていらっしゃるのでしょうか?」
そうそう!
勢いよく頷き返すと、男たちがざわめいた。
せわしなく顔を見合わせて、一斉に口を開く。
「ちょちょちょっ、月の女神様ぁ!? な、なんでよりによって、信心もクソもないヴィクターなんかに!?」
「言葉が下品ですよ、カイル。……ああ、ですが本当に何故なのでしょう! 口も足グセも態度も悪く、真心・良心・思いやり、そんな言葉は俺の辞書には存在しない!なヴィクター殿下などよりも、このわたしの方が禁欲的で献身的で汚れなき心とあふれんばかりの愛を持って」
「えぇいやかましいっ! シーナ、今すぐ人間に戻れ! 助けろと言うならば、まずはお前の口から事情を説明してみせろっ」
「ごるぁヴィクター殿下ァッ! 女神様の御使いであられるシーナ・ルー様に、なんですかその口のききようはァッ!」
「そうだぞヴィクター! 女神様以前に、女の子相手にそれはない! そんなだから人生で一度もモテたことがないんだぞ!?」
わあわあ騒ぐ男たちを、私は黙りこくって見守った。
そうか、人生で一度もモテたことがな……や、まあそれは置いといて。人間に戻れと言われても、今は無理だよ。
(それに……)
人間に戻ったら、魔素の塊であるヴィクターには近寄れない。よって、私たちが直接会話をすることは不可能。
困り果てて天を仰ぐ。
頭上にある大きな窓に、ぽつぽつと雫が跳ねていた。……ん?
机の上から書棚をつたい、えっさほいさと窓の前まで移動する。一生懸命に背伸びして外を見ると、雨が激しく木々を打ちつけていた。うわあ、最悪。
(この雨が続くなら、今夜はきっと月が見えないな)
ため息をつき、まだ激しく言い争っている男たちを振り向いた。ねえねえ、私ってば月がないとね――……
「代われるものならばお前達が代われば良いだろう! 誰が好き好んで、わけのわからん人助けなどっ」
「だからシーナちゃんはお前がいいって言ってんだろ!? 可愛い女の子になったシーナちゃんから、『片時も離さないで、ずっと側にいてほしいのっ』なぁんて愛の告白をされておきながらお前という奴はっ」
「はああああッ!? ヴィクター殿下ァッ、不誠実、不誠実ですよこの女たらしッ! ふしだら! 破廉恥人間! 最低よォッ!!」
「…………」
どうしよう。
とんでもない誤解が爆誕しとる。
茫然と立ち尽くす間にも、男たちはどんどんヒートアップしていく。
「何が愛の告白だ! こんな毛玉に懸想されて嬉しいわけがなかろう!」
「へええ、じゃあ断るんだ!? いいよそれなら、無事にシーナちゃんの頼み事を叶えた暁には、オレがシーナちゃんを引き取ってあげるよ! お前はそれで構わないんだよなヴィクター!?」
「すっ……、好きにすればいいだろう!」
「ああっほら、今一瞬詰まったよね!?」
「抜け駆けは許しませんよ、カイル! 無論わたしも参戦いたします! この身を賭して誠心誠意お仕えするとお約束いたしますともー!」
ぎゃあぎゃあぎゃあ。
(……えっと)
一体どこから手を付けるべきなのか。
わからないほどにこんがらがってしまったが、どうやらこれだけは確かなようだ。
(すごい。私ってば人生初のモテ期到来だね!)
……ただし、もふもふ毛玉枠として。
きっとそんな但し書きが付くに違いない。嬉しくなーい。