第一章
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2024年11月。私は、年齢差29の彼女ともう一度再会できるのだろうか。いつまで経っても彼女の存在が思考から消えない。今、彼女が勤める作業所に行こうか悩んでいる。しかし、行動しようとしても、それができない。妙な意識が邪魔をして、結局動けないのだ。この恋の進展は実に奇妙だ。まるで映画かドラマを見ているような展開だ。
2024年2月。彼女の名前は荻野真子、36歳。日本人離れした顔立ちで、クリっとした大きな瞳が印象的だ。TikTokで見つけたアイドル、萩田帆風の動画が彼女の代わりとなり、私の心を4年間癒してくれた。この日、真子を焼肉に誘うのに。苦難の策を講じたのだ。共通の友達である佐藤恵、59歳の力を借りた。恵との関係は実に奇妙だ。彼女との会話を利用して、この5年間で3度、真子を交えた食事に誘うことに成功した。しかし、手を繋ぐことはおろか、デートに誘うことすらできない。妙な感情が高ぶってしまうのだ。私は統合失調感情障害という病を背負っている。恋愛感情は感情のコントロールを乱し、これまで3度、その脅威にさらされた。そして、年齢差もあり、もう淡い恋をする年齢でもないのに、なぜこうも私は彼女に感情を揺さぶられるのだろうか。彼女に私の思いは伝わっているのだろうか。私は彼女と会うと、世間話しかできない。本当は彼女のことをもっと知りたいのに、言えない。この感情の昂りは一体何なのだろう。還暦を超えた今でも、高校時代の甘い恋愛感情を抱いているのだろうか。真子との関係も奇妙だが、恵との関係も実に奇妙だ。この恋は、2019年の出会いから始まった。私の心のどこかに異常があったのだろうか。彼女と出会った直後から、その前兆が現れ始めた。
平成31年3月23日、木曜日。
夕方から小説と自叙伝を書き始めた。段々と頭のテンションが上がっていくのを感じていた。この三日間は寝てばかりだったが、少し起きては執筆を進めていた。一日で原稿用紙一枚程度の進み具合だ。
異変が起きたのは、その日のテレビ番組「フライデー」で凶悪殺人犯の行動を見ていた時だった。
サイコパス――支配欲が高く、暴力的。その「支配欲」という言葉に頭が反応し、自分の行動と関連付けて考えるようになってしまったのだ。過去に女性に対しての失敗があり、なぜ自分がストーカーまがいの行動に走ったのか。何か女性に対する支配欲があるのだろうか。私の頭は次第にこの考えに支配されていった。木曜日の診察で、カウンセリングの際にこの出来事について話し、自分がその思考に囚われていることを打ち明けた。私を我に返らせたのは「自生思考」についての記事だった。自生思考とは、考えが勝手に浮かび、集中力を奪う現象のことだ。しかし、私の場合は違った。妄想している最中にもかかわらず、驚異的な集中力が発揮されていた。統合失調症に悩まされながらも、山梨から熊本まで高速を運転して帰って来られたのもその集中力のおかげだった。
そして、同じような出来事は6年前にも起きていた。
三年前。
A型事業所で働いていた時のこと。同僚の女性と半年間付き合っていた。ある日、市民会館でNPOが主催する「精神障害者の人生、仕事、恋愛、結婚」に関するセミナーに参加した。その頃、A型事業所で働く年配の男性Aさんが彼女と親しくしているのが気になっていた。そして、その日、私の席の前にAさんが座っていた。私は彼に対して特に何も感じていなかったのが本音だ。しかし、時間が経つにつれて得体の知れない感情が湧き上がってきた。脳内で彼に対する疑念が膨れ上がり、例えば「さっき電話していたのは彼女だったのではないか」といった具合に、次第に感情が激しく揺れ動き始めた。感情が頂点に達し、血管が波打つのを感じた。そして、セミナーの主催者が「つぶやきたいことがある人はどうぞ」と呼びかけた時、感情を抑えきれなくなった私は何かを話したが、何を言ったのかはもう覚えていない。
その後、一日経って気持ちは元に戻ろうとしても、それができない」
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2024年11月。私は、年齢差29の彼女ともう一度再会できるのだろうか。いつまで経っても彼女の存在が思考から消えない。今、彼女が勤める作業所に行こうか悩んでいる。しかし、行動しようとしても、それができない。妙な意識が邪魔をして、結局動けないのだ。この恋の進展は実に奇妙だ。まるで映画かドラマを見ているような展開だ。
2024年2月。彼女の名前は荻野真子、36歳。日本人離れした顔立ちで、クリっとした大きな瞳が印象的だ。TikTokで見つけたアイドル、萩田帆風の動画が彼女の代わりとなり、私の心を4年間癒してくれた。この日、真子を焼肉に誘うのに。苦難の策を講じたのだ。共通の友達である佐藤恵、59歳の力を借りた。恵との関係は実に奇妙だ。彼女との会話を利用して、この5年間で3度、真子を交えた食事に誘うことに成功した。しかし、手を繋ぐことはおろか、デートに誘うことすらできない。妙な感情が高ぶってしまうのだ。私は統合失調感情障害という病を背負っている。恋愛感情は感情のコントロールを乱し、これまで3度、その脅威にさらされた。そして、年齢差もあり、もう淡い恋をする年齢でもないのに、なぜこうも私は彼女に感情を揺さぶられるのだろうか。彼女に私の思いは伝わっているのだろうか。私は彼女と会うと、世間話しかできない。本当は彼女のことをもっと知りたいのに、言えない。この感情の昂りは一体何なのだろう。還暦を超えた今でも、高校時代の甘い恋愛感情を抱いているのだろうか。真子との関係も奇妙だが、恵との関係も実に奇妙だ。この恋は、2019年の出会いから始まった。私の心のどこかに異常があったのだろうか。彼女と出会った直後から、その前兆が現れ始めた。
平成31年3月23日、木曜日。
夕方から小説と自叙伝を書き始めた。段々と頭のテンションが上がっていくのを感じていた。この三日間は寝てばかりだったが、少し起きては執筆を進めていた。一日で原稿用紙一枚程度の進み具合だ。
異変が起きたのは、その日のテレビ番組「フライデー」で凶悪殺人犯の行動を見ていた時だった。
サイコパス――支配欲が高く、暴力的。その「支配欲」という言葉に頭が反応し、自分の行動と関連付けて考えるようになってしまったのだ。過去に女性に対しての失敗があり、なぜ自分がストーカーまがいの行動に走ったのか。何か女性に対する支配欲があるのだろうか。私の頭は次第にこの考えに支配されていった。木曜日の診察で、カウンセリングの際にこの出来事について話し、自分がその思考に囚われていることを打ち明けた。私を我に返らせたのは「自生思考」についての記事だった。自生思考とは、考えが勝手に浮かび、集中力を奪う現象のことだ。しかし、私の場合は違った。妄想している最中にもかかわらず、驚異的な集中力が発揮されていた。統合失調症に悩まされながらも、山梨から熊本まで高速を運転して帰って来られたのもその集中力のおかげだった。
そして、同じような出来事は6年前にも起きていた。
三年前。
A型事業所で働いていた時のこと。同僚の女性と半年間付き合っていた。ある日、市民会館でNPOが主催する「精神障害者の人生、仕事、恋愛、結婚」に関するセミナーに参加した。その頃、A型事業所で働く年配の男性Aさんが彼女と親しくしているのが気になっていた。そして、その日、私の席の前にAさんが座っていた。私は彼に対して特に何も感じていなかったのが本音だ。しかし、時間が経つにつれて得体の知れない感情が湧き上がってきた。脳内で彼に対する疑念が膨れ上がり、例えば「さっき電話していたのは彼女だったのではないか」といった具合に、次第に感情が激しく揺れ動き始めた。感情が頂点に達し、血管が波打つのを感じた。そして、セミナーの主催者が「つぶやきたいことがある人はどうぞ」と呼びかけた時、感情を抑えきれなくなった私は何かを話したが、何を言ったのかはもう覚えていない。
その後、一日経って気持ちは元に戻ろうとしても、それができない」