「エミリー、お前は王国の軍隊に行かなきゃならない」
「え!」
「治癒魔法が使えるものは全員一度軍に所属しなくちゃならないんじゃ。そして、そこでさらに学んで、治癒師となる。かなりいい職業じゃよ。今よりずっといい暮らしをすることができる」
「そ、そうなんですか……」
生まれてから一度も離れたことのないこの村を離れる。すごく不安だ。だけど、治癒師になったら、たくさんお金が稼げる。今まで苦労してきたアイリーンに恩返しができるはずだ。でも、今はアイリーンが心配だ。
「あの、軍に行くのはお母さんが回復してからでもいいですか?」
「ああ。わしが軍に伝えておく」
「ありがとうございます。お母さんのところに戻りますね」
「お大事にな」
私は急いで家に戻った。アイリーンは藁の上に寝かされていて、村長の息子さんたちが介抱してくれていた。私はお礼を言って、看病を引き継ぐ。
アイリーンが目覚めたのは翌日になってからだった。アイリーンはその日あまり動けなかったが、すぐに回復した。事情を話すと、寂しそうな顔をされたが、「エミリーがたくさんの人を助けられるのは素敵なことね。頑張って」と励まされた。
数日後、村に軍人たちがやってきた。私を引き取りに来たのだという。村長さんと一緒に彼らは私の家を訪ねてきた。
「この子が治癒魔法を使うことができたんです。エミリー、挨拶して」
アイリーンに背中を押されて、軍人たちの前に出される。緊張しつつ、私は彼らを見上げると、じっと見つめ返された。
「エミリーと申します。よろしくお願いします」
「俺がウィリアム、こっちがジェームス。王都までの護衛を任された。よろしくな」
「よろしく」
「ウィリアムさん、ジェームスさん。ここまで来てくれてありがとうございます」
「娘をよろしくお願いします」
そうして私は生まれ育った村を出ることになった。