「ぅわ・・・高い・・・」
ビルの最上階の窓から顔をのぞかせる私・(みずのえ)椛虹(もみじ)
大学のサークルで来るはずだったけど、急な予定(意訳)が入ったらしく1人で来たのだ。
なんで1人なのに来たのか。
それは気分であ~る。
私は基本的に気分で行動するのだ。
そしてその『気分』こそが・・・。
──悲しい(?)事件を起こすのだった。
                                                                    
                                                                
ガタガタガタッ
「・・・え」
ビルが大きく揺れる。
横にぐわんぐわん・・・。
ガシャン!
電灯が落ちる。
最上階なだけあって物凄く揺れるんだが。
歴史に残るんじゃないかと思うほど、それはもう大きく。
とりあえず安全なところを探して・・・っえ?
「なんで・・・」
今は早朝。
この時間にビルに人は少ないし、この階には誰もいなかった。
でも、見間違いじゃない。
金の髪と、それを守るように乗せられた手。
日本人じゃない。
でもここは外国人もよく観光に来るからいてもおかしくない、よなぁ。
とりあえず行くか。
まず金髪頭に近寄ってみると。
「・・・少年、か」
小学校中学年くらいの少年だ。
『キミ、どこから来た?』
試しに英語で訊いてみるも、少年は首をかしげるばかり。
『キミ、どこから来た?』
ロシア語も・・・駄目。
『キミ、どこから来た?』
『・・・っ!ふ、フランス!』
フランス語で訊くと、返事があった。
私は英語とロシア語、フランス語と中国語と韓国語とドイツ語の六か国語ポリグロットだ。
ちょっと興味があって小学生のころ頑張って覚えたのが懐かしい。
『お母さんとお父さんは?』
『ま、迷子になって・・・ビルの中を歩いてたらここにいた・・・』
少年はそう言って泣きそうな顔になる。
そんな顔も様になる美形ショタ・・・ってそんなコトは今放っておいて。
『さっきに地震、大きかったっ・・・お母さんとお父さんは無事?僕と探して、瓦礫の下敷きになってたら・・・』
『大丈夫。安心していいよ。私は椛虹。キミは?』
『モミジ・・・僕はジュダイト。10歳だよ』
少年・・・ジュダイトはそう言って少しだけ笑う。
その時。
「っ危ない!」
天井から崩れてくる。
ジュダイトは私が日本語でなにを言ったのかわからなかったのか、私の視線をたどって上を見た。
それと同時に、私はジュダイトを抱きしめて後ろに飛びのく。
ガン!
天井がさっきまで私たちのいたところに落ちている。
どうやら地震でもろくなっているよう。
でもビルは頑丈なはずだから、それほど大きな地震だったんだろう。
・・・ん?人の気配がする。
「誰かいますか!」
救助隊の人たちか・・・。
「フランス人のジュダイトくん、10歳、膝に切り傷あり、右脚を打撲した可能性ありです!」
叫ぶように伝えると、救助隊の人たちがこちらに気づいて近寄ってくる。
だってジュダイト・・・さっきから1回も自分で動いていない。
右脚をかばうような体勢になってるし、骨は折れてなさそうだから打撲あたりだろう。
「私は歩けます。ジュダイトを頼みますね」
あぁ、さすがに嘘をつき過ぎたか。
さっき後ろに飛んだ時、太ももをザックリ切った。血は全然止まる気配なし!
あとは・・・肋と左腕を折ったな。
ふつう動けないんだけど・・・。
私はジュダイトを自己嫌悪──このケガの原因はジュダイトとも考えられる──に陥らせないよう、近くにあった破れたカーテンを引き寄せる。
まず首から腕にかけて腕を固定。
次に肋をカーテンで巻いて、左手と口を使って縛った。
これで少しは行ける・・・はず。
だが、ジュダイトに心配かけまい作戦は失敗に終わった。
視界が傾く。
立ち上がって数歩だけでこれか・・・。
バタン、という音がして、頭を強打する。
音に気づいたジュダイトが振り向いて、私を見て・・・。
『モミジ!』
『・・・大丈夫。だいじょー・・・ぶ・・・ジュ、ダ・・・』
『モミジ!死んじゃだめだよ!』
幼い(?)少年の悲痛の叫び声に心が苦しくなる。
あーぁ・・・結局心配させてるじゃん。
意味ないよ・・・主に痛みをこらえた。
『ジュダイト・・・?私はまだ・・・死なない・・・よ?しぶとい・・・ん、だからっ・・・』
「しっかりしてください!大丈夫ですか!おい、急ぐぞ!」
ふわりと体が浮いて、担架に乗せられた感じがする。
救助隊の人の声が遠くに聞こえて。
あ・・・死ぬなぁこれ。
「椛虹!死ぬのは許さな────」
・・・は、え?
ちょ、ジュダイト日本語話せたの?
瓦礫の時理解できてなかったんじゃ・・・しかも口調変わってるし。
・・・あぁ、もういいか。
じゃーね・・・自分・・・不思議な少年ジュダイト。