「うわ、まじだ…」



まさにその通りだった。



岩崎龍臣の一人娘、岩崎 穂風。



ほぼ毎回全日本選手権でチャンピオンを取ってる。



世界大会でも何回もチャンピオンを取ってて。



サーファーで知らない人はいないくらいの大物だ。



母親は、世界一と言っていいほどのシェイパー(※サーフボードを作る職人)の川村 そよ子。



顔はあんまり見たことがなかったし、世界大会での波に乗ってる姿は、金も時間もなくてほとんど生で見たことはなかった。



生で見たのは過去に一度。



遠目で彼女を見たそのとき、彼女のサーフの美しさに目を奪われた。



気になってそのあと彼女の映像や写真を見てみたが、あまりピンと来なくて。



そのときの美しさみたいなものはまぐれだったんだと思ってた。



それきり彼女に対して特別視もせず、顔とかもよく見るような機会もなかった。



だから俺はすぐに分からなかったらしい。



やっぱり、まぐれじゃなかった…。



どうりであんなに上手いはず…。



だけど、俺の彼女に対する興味は、うまく言えないが…ただ「上手い」だけじゃない…。



彼女のサーフは、かっこよくて、堂々としていて、まるで凛とした胡蝶蘭の花のような。



それでいて無邪気に、そしてリラックスして波と戯れていた彼女が、心の奥まで俺のことを捉えて離さなかった。



片付けもそこそこに、次の日は朝4時半起き。



サーファーの朝は早い。



朝の方が波の状態も良くて波乗りしやすいからな。



俺は、サーフ用品一式をまとめた段ボールを開けて準備。



それから、原付に板を乗せて出発した。



家から海は原付で5分くらい。



サーファーにとって最高の立地だ。



海に着くと、まばらな人。



とりあえず海に入って波を待っていると、少し離れたところに岩崎穂風を見かけた。



相変わらずかっこいい…。



指をカメラの形にして、シャッターを切った。



彼女が乗り終えたタイミングで波がやってきたので慌てて俺も乗る。



襲いかかる爽快感。



板に乗って少しターンをした。



って、やべ…。



俺は慌てて板から波に飛び込んだ。



俺の少し奥にいたお兄さん数人がこっちを睨んでる。