でも、俺が何か言おうとする前に、彼女の方が「ありがとね」と言った。



そのまま海に引き返した彼女は、途中で止まって俺の方を振り向いた。



ん?



「写真、かなり気に入った!」



残された俺は、呆然…。



またすぐに波に乗り始めた彼女をしばらく見つめていた。



新居に行くと、引っ越し作業は完全に終わっていた。



はっきり言ってボロい、2階建て木造アパートの2階、204号室。



カメラマンは儲からない。



特に、サーフフォトグラファーなんてニッチな職種の収入なんて雀の涙だ。



その中でもすごい人はもちろんいる。



大物のプロサーファーをガンガン撮って、芸術性もすげえ高いカメラマン。



俺は、そんなデカいカメラマンになるのが夢。



部屋の段ボールたちの中から、ひときわデカい段ボールを開ける。



愛用のサーフボード。



それからもう一つ同じ大きさの段ボールも。



こっちもサーフボード。



2本とも、すげえ大事にしてるボードだ。



天井近い位置にラックを設置してサーフボードをかけた。



1本目は、山吹色で青の縁取りのボード。



もう1本は、水色にカワセミが一羽描かれているボード。



こっちはタツ・イワサキブランドのまじで高いやつ。



タツ・イワサキとは、サーフ界でレジェンド的な存在である岩崎 龍臣(いわさき たつおみ)のサーフブランドだ。



岩崎龍臣はまじでかっこいいしすげえ憧れるサーファー。



写真集とかも持ってるくらいには憧れてる…。



サーフィンの板には、ロングボードとショートボードの2種類があり、岩崎龍臣はロングボーダー。



だから俺もそれに憧れてロングボードをやっている。



ん? 岩崎龍臣…?



待て待て、今日会ったあの女、どこかで見た顔と思ったけど、岩崎龍臣の娘の岩崎 穂風(いわさき みかぜ)…?



乗ってたのもロングボードだったし、何よりあの上手さは絶対にそうだろ…。



調べてみた。