亜季は笑顔が優しそうな大家のおじさんから鍵を受け取ると、一緒に二階建てアパートの階段を昇る。

そしてワンルームの入口扉の鍵をゆっくりと開けると、恐る恐る中に踏み込んだ。 


部屋は決して新しいとはいえなかったが、手入れは充分に行き届いており、白を貴重にした内装を亜季は一目で気に入った。

亜季が靴を脱いで部屋に入ると、窓際の隅に古ぼけたTVラックが置いてあった。


亜季はゆっくりと近づくと、その前にしゃがみこむ。

その薄い木目調のラックは傷だらけであった。不思議そうな顔でラックを見つめる亜季に、大家は言った。


「何年か前に入居していた女の子が、引っ越すときに置いていったのを次に入った方々が代々使っているんですよ。いらないんだった棄てますけど、どうします?」

「あ、いえ、使わせてください。」

亜季は、即答で答えた。


このたくさんの想い出を見守ってきたラックは、いったいどんな人たちが使ってきたのであろうか。


自分と同じような。

不安と。

期待と。

いろんな想いが交差して。


この部屋で暮らしてきたのかな。