二学期初日。
学校までの道のりは、約束した通り執事として凌雅さんが送り届けてくれた。
「終わる時間にはお迎えにあがります」
そう言い残して、学校からはすぐに去ってしまった。
1人になりさらに緊張でドキドキしながら職員室へ向かい、担任の先生と会った。
私のクラスは2-A
そこまで大きくない学校ということもあり、学年は全部で3クラス。クラス替えは毎年行うタイプの学校だった。
担任の先生に連れられ、クラスへ向かう。心臓の音が外に漏れてしまいそうなほどの緊張のまま扉を開けた。
一気に集まる視線。
ギュッと手を固く握りしめ自己紹介をした。
「はじめまして。榎本双葉です。よろしくお願いします。」
拍手をしてはもらったが、いきなり東京から来た人ということで離れて様子をみられている感じだった。
自分から話しかけにいくこともできない私は、転校初日から1人で過ごすこととなった。
別荘でいる時と一緒。前の環境と一緒。
そう考えても少し寂しさがあった。
初日の学校が終わり、何も無かったかのように車へ。
学校のことも含め、特に話さず別荘へ戻った。
新しい教科書にノート、体操服やその他必要なものを一通り今日は持ち帰ってきたので明日からの準備へと取り掛かる。
そこで1日の振り返りと反省会を脳内で始めるのであった。
前の席の子、なんか話しかけようとしてくれてた気はしたけどなあ…もっと話しかけやすい雰囲気出しておくべきだったかな
自分から輪に入ってみるべきだったかな…
なんて。
ハッと気がつき時計をみると20時。
普段は食事も終えている時間と気づき急いでキッチンへと向かった。
キッチンでは、何も言わず凌雅さんが待っていた。
「ごめんなさい、遅くなりました」
「今日から学校だったししょうがないでしょ」
「今日は何作りますか?」
「とんかつ」
トントントン、ジュー、パチパチパチ
いつもよりも急ぎで作らなければと思う気持ちと、学校での迷いとを抱えながら料理をしていたら気づくと人差し指から出血していた。
包丁で切ってしまったらしい。
「あ……」
出血をただ眺めるしか頭が動いていなかったようで、横から凌雅さんが止血をしてくれていた。
「しばらくは学校も忙しいだろうし、俺が作るよ」
「大丈夫です、できます!」
「いや、指切ってるし」
「これは…たまたまなので!」
「はあ…じゃあ執事として。私がしばらくはお食事を作ります。」
急に凌雅さんの執事スイッチが入った。きっと、私が言うことを聞かないだろうと踏んだから。
「わかりました。すみません…ありがとうございます…」
執事スイッチまで入れてしまったらもう引き下がるしかない。
止血している指を掴んだまま部屋に戻り、処置をした。
再びぼーっとしていると、食事ができたと呼びに来てくれた凌雅さん。
いつもと変わらず食事を取り、お風呂から出ると私は無意識にお庭のヒマワリへ足が向いていた。
「こんばんは。お話きいてくれますか?」
返事はある訳ないが、問いかけ、そのまま続けた。
「今日、初めて学校に行ったんだ。すごく緊張してね、友だちも作れるかなって。挨拶をしたあと、たぶん何人か話しかけようとしてくれてた気がするんだけど避けてトイレとか行っちゃった…。やっぱり友だち作るの苦手みたい。挙句の果てに、さっきも料理でミスしちゃうし、凌雅さんに迷惑かけちゃうし…アナタみたいに素直にまっすぐになれれば楽だろうに。」
一通り話きった後は、返ってこない返事を待つかのようにしばらく待った。
無音が続く。
「よし。明日も頑張る。おやすみなさい。」
気持ちをなんとか切り替え、明日を待った。
翌日。
何気ない朝を迎え、凌雅さんに学校まで送ってもらい教室で今日の予定を知る。
それは修学旅行の班決め。
いきなりの高すぎるハードルだったが、どうすることも出来ず、その時間が来るのを待った。
そして修学旅行の班決めの時間。
次々と班ができていき、余ったところに入ればいいやと考えていると
「ねえ、榎本さん!良かったら私たちと同じ班にならない?」
天使のような声が後ろから聞こえてきた。
振り向くと、そこにはThe優しい女の子という様子の子が立っていた。
「私、白石 美羽《しらいし みう》。昨日から気になってたんだけど、タイミング掴めなくて…」
「いいんですか?」
「もちろん!こっちは夏目圭人と加藤悟。2人とも私の幼なじみだからこのメンバーで班どうかなって?」
「大丈夫です。ありがとうございます。」
なんとか、班決めを乗り切ることができた。
美羽ちゃんは学級委員ということもあり、しっかり者だけど優しくおっとりしていて一言でいうと可愛い子。
3人でいることが多かったみたいだけど、女友達がほしいと思って私を引き入れてくれたらしい。お互いに美羽ちゃん・双葉ちゃんと呼び合うことにもした。
夏目くんは美羽ちゃんと同じ学級委員でサッカー部。真面目そうな見た目だけど、話した感じ真面目さはあるもののとても優しそうだった。美羽ちゃんの彼氏さんらしい。
加藤くんは分かりやすくモテるタイプの爽やかイケメンなサッカー部。この人も夏目くん同様に優しい人だった。
なんとか2日目にして友だちを作ることができると、そこからは世界が変わったかのように1日が過ぎるのが早く感じた。
放課後になり、帰り支度をしていると
「双葉ちゃんは部活入ってないの?」
加藤くんが声をかけてくれた。今日は部活がお休みらしい。
中でも加藤くんはよく話しかけてくれた。美羽ちゃんカップルに気を使ってなのか、一緒に居てくれることも多い。
「入ってないよ。少し学校にも慣れたらバイト始めようと思ってて!」
「残念。部活入るならサッカー部のマネージャーしてくれないかなって誘おうかと思ったのに(笑)」
そんな話をしながら帰り道の校門を出ると凌雅さんと鉢合わせた。
「おかえりなさいませ。」
「あっ。ただいまです。」
いつもは少し離れた交差点近くに居ることが多いのに、珍しく校門の前まで迎えにきてくれていたのだ。
「加藤くん、ごめんなさい。今日はお迎えが来てるみたいだからこれで。また明日。」
「よく来てもらうの?」
「少し家が遠くて」
「そうなんだ。また明日。」
良いお家柄と知られたら距離を取られそうと思い、本当の事は話さず別れ、車にのった。
「お友だちができたのですか?」
珍しく凌雅さんが聞いてきた
「はい、今日修学旅行の班を決めなければいけなくて。同じ班になった方です。」
「そうですか。」
学校のことや私のことには基本関心が無い様子の凌雅さんに友だちのことを聞かれ、1度はびっくりしたものの改めて友だちが出来たということを実感し少し浮かれていた。