引越しやその他、手続きなども終わり、いざ学校へといったところで、7月後半ということもあり夏休み期間に入ってしまい、本格的に通うのは2学期のスタート9月となった。

夏が本格的に始まっているが避暑地に近い場所ということもあり、暑さも辛くはない。

夏休みの宿題なども無く、ただ退屈な時間がすぎるのを待っていた。

洗濯や料理は変わらず凌雅さんに教えてもらい、料理に関しては少しずつ包丁での切り方なども覚えて料理に使うことができるようになってきた。

レシピなども教えてもらい、部屋でこっそりノートにまとめている。

公にまとめていることを伝えたら少しバカにされそうな気がするので、凌雅さんには絶対秘密。



 
 
そしてこの数ヶ月で、お気に入りな場所ができた。
 
それは別荘のお庭。
昔からお母様の影響でよくお花を目にする機会が多く、自然と花を見る習慣がついていたこともあり、別荘に来てすぐの頃は枯れ果てた草花に少し悲しさを覚えていた。

しかし、凌雅さんが手入れをし始めてから再び活気のあるお庭へと変化している様子を見ては、凌雅さんにバレないようにこっそりとお庭に出てお花を楽しんでいた。

なんとなく、凌雅さんに家事を教えてもらう以外で顔を合わせるのは申し訳なく感じていたからである。

お花のチョイスなどで性格が表れることもあり、凌雅さんの手入れしているお庭はThe王道
四季折々の草花を育てていた。

怖い印象も与える人だが、真面目で優しい人なのが伝わってもくる。
あの約束以降、とても真剣に家事も教えてもらっているというところにも通ずる。

そしてそこには私の大好きな花、ヒマワリが咲いていた

小さい頃からよく夏になるとヒマワリ畑に一葉ちゃんと光希くんと行っていたたくさんの思い出が詰まった花。ここに初めて来た日もその時の夢。

大きく太陽に向かって咲いているヒマワリは私にとっての目標でもあるのかもしれない。

そんなヒマワリが今日も太陽に向かって大きく咲いている。

「ありがとう…」

無意識で凌雅さんへ気持ちを呟いていると

「なにしてる」

後ろにはティーセットを持った凌雅さんが立っていた

「あっ。えっと…お花を見に」
「そう。」

一言、言うと後ろにあったテーブルと椅子に腰掛け、本を片手にティータイムを始めていた。

ここ数ヶ月の変化といえば、凌雅さんから敬語が消えたこと。
友だちとしてという条件を踏まえ、執事の仕事をしている時以外はラフに話してくることが増えた。
かしこまった話し方をされるよりは、気が楽だけれど慣れない自分もいる。
 
まだ、ヒマワリを眺めていたかった私は
 
「ご一緒してもいいですか?」

気づけば口走って口実を作っていた。
ヒマワリを眺めていたいという気持ちだけでなく、お庭での読書も楽しそうに感じていたのだろう。

「どうぞ」

本から顔もあげずな凌雅さんに返事をもらうと急いでキッチンに向かい、紅茶の準備と部屋から本。そして棚から数枚クッキーを手に取り戻った。

「これ、良かったらお供にどうぞ。」

一緒に過ごさせてもらう分のお返しとしてクッキーを渡した。

「ありがとう。」

1度こっちを見たと思えば再び本を見ていた。少し目があったことにドキッとしてしまった自分もいた。
どうして、ここで読書しているのだろう?と疑問も浮かんだ。ただの読書なら部屋の方が快適だと思うけれど。

「凌雅さんもお花好きなんですか?」
「まあ」
「私もヒマワリが好きで眺めてました」
「…」

友だちになると決めたからには仲良くなりたいと思いつつも、友だちと仲良くなる方法というものが思いつかず話も上手く続かない。凌雅さんは秘密がまだまだ多い気がする。

 

そんなこんなで大好きなお花や紅茶に囲まれ、本を読んでいると気づけば夕陽がお庭を照らしていた。

「あっ!大変!」

今日が期限の本を図書館へ返しにいく予定をすっかり忘れていた。

「驚かせてごめんなさい、ティーセットはあとで片付けるので置いておいてください。」
「どうした?」
「えっと…急用を思い出して」
「急用?」
「…今日までに返さないといけない本を忘れてたので、図書館に行ってきます。」
「車、乗ってけば?」
「いや、今は執事の時間外ですし」
「執事じゃなくて、友だちの車として乗ってけば?」
「でも…迷惑…」
「車で待ってるから」

走って向かうはずが、凌雅さんのご好意(?)半分強制的に乗せていってもらえることになった。

執事の時間じゃないのにという決め事があっても、友だちとしてと言われると断りきれない。
急いで準備をして、凌雅さんの待つ車へと向かった。




図書館は車だと15分ほどの場所。凌雅さんのおかげでギリギリ18: 00の閉館時間に間に合った。

「ありがとうございました。間に合いました。」
「ん」

何を考えているのか、やはりイマイチわからない反応ではあったが、お礼をしなければと考えていた。
執事として車に乗せてもらい送迎してもらうことは、今までも何度かあったが、プライベートな凌雅さんの助手席に乗せてもらうのは初めてで、なんだか緊張もしていた。

「あの…何かお礼でも」
「いらない、大丈夫」
「でも」
「今日の夕食、外で食べて帰ろ。作ること以外もたまにはいいでしょ」
「あ…はい。」
「近くだと、ファミレスしかないけどいい?」
「はい」

凌雅さんのペースのまま、夜ご飯を食べるため別荘と図書館の間にあるファミレスへ寄った。
ファミレスに人生で初めて入ったこともあり、少し緊張もしていた私だったが、見透かされたかのようにさりげなくフォローをしてくれている凌雅さんがいた。

一緒に料理するようになって、意思疎通?みたいになってきたのかなあ。

「好きな物頼んでいいんだよ」
「…はい。たくさんあって迷いますね。」
「これは人気みたい」
「じゃあ、これで」

凌雅さんはハンバーグセット。私はオススメされた和食御膳を頼んだ。

食事が来るまでの間も何を話せばいいかわからず無言の時間になってしまった。
仲良くなるには何か話さないと。

「凌雅さんは好きなお花ありますか?」
「あるにはある」
「そうなんですね、いつか教えてください」

やっぱり会話は苦手だ。親しい人とはスラスラと喋れるはずなのにな。

気まづい雰囲気な中、食事も到着し食べ始めた。

「美味しい…!」

和食を食べる習慣が今まで無かったこともあり、今も洋食に近いメニューを作ることも多い。久しぶりに和食を食べて、思わず微笑んでしまった。

「和食好きなら、今度作ろう」

些細な変化にすぐ気づいてくれる凌雅さん。
さすが執事だなと関心してしまう。

会話が成立しているのか、していないのかという話を何度か繰り返しながら食事を終えファミレスを出て、別荘へ戻った。

お礼で奢る予定が、結果奢られてしまい最後まで凌雅さんのペースに飲み込まれてしまったようだった。




 
その夜、ふと話したいと思い向かったのはお庭のヒマワリ。時間的にもう下を向いてしまっているが、大好きなヒマワリにだったら今の自分の気持ちを吐き出せるかもしれないと思った。


「あっという間に数ヶ月経ったみたい。これから大丈夫かな。学校も不安だし、友だちも作れる気がしない……今だって、凌雅さんと上手く会話すらできないのに…私もアナタみたいにまっすぐ素敵な人になりたいなぁ。また明日、おやすみ。」


小中高、一葉ちゃんや光希くんがいるから特に友だちを作ってこなかったこともあって、私には今も何かを相談できる人がいない。

急に不安が押し寄せてきて、胸がいっぱいになってしまった。

ただ、ヒマワリなら。私の憧れのヒマワリなら何も言わず聞いていてくれると思い、話し相手に選んでみた。

もうしばらくすると夏休みも終わる。
新しい環境へのチャレンジが待っている。