○Side双葉○





到着してから3時間後。
空が明るいうちに到着していたが、気づけば太陽も沈みはじめていた。

田中さんがひとまず、私の部屋とキッチン、お風呂場、ダイニングの掃除は終えたとのことで別荘へ入ることができた。

通された部屋は6畳ほどの大きさに机と椅子、そしてベットがひとつのシンプルな部屋。
カーテンも無地の白色と病室を思わせるような様子。また布団は綺麗な状態で残っていたとのことだった。

 
田中さんは夕食の準備をするとのことで再び部屋から出ていき、私は荷解きをすることにした。
荷物といっても持ってきた物は必要最低限のもの。残りは宅配で明日届くようにしている。
やっとゆっくりできるということもあり、荷解きを終えると布団へ横になり天を仰ぐ。
目まぐるしい1日だったということもありようやく、今の状況を実感した。



今日から1人での新たな生活が始まる。
2年後にはここも出ていかなければならないということを考えるとやらなければならないことはたくさんあった。
そのうちのまずひとつをこの後の夕食で、田中さんへお願いしよう。
そう思いながら目をつぶると知らぬ間に夢の中へ誘われていた。




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 黄色一色のヒマワリ畑
 一葉ちゃんと光希くんと3人走っている
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「双葉様。お食事の準備が出来ましたが、いかがなさいますか?」

名前を呼ばれ目を開けるとそこには田中さんが立っており、そこで初めて寝てしまったことを自覚した。

「いただきます。今向かいます。」

そう伝え、寝起きのぼーっとした頭と体をなんとか動かしながら足を動かした。

さっき夢の中で懐かしい記憶を思い出した。よく遊びに行っていたヒマワリ畑。どこにあるのかも知らないけれど。
楽しかった思い出がたくさん。ただ、このタイミングでこの夢を思い出すのはなんだか切ない。
複雑な気持ちを抱えながらダイニングへ向かった。

出てきた料理は家庭的なオムライス。

家ではあまり出てきたことはない料理で口に合う心配をしながら、お腹が空いていたのでそのままいただいた。

「美味しい!」
「ありがとうございます。」

心配を他所に美味しくて笑みがこぼれる。
あれ以来、久しぶりに笑うことができたかもしれない。

食べることにも夢中になってしまっていたが、田中さんへのお願いを話すことにした。

「田中さん」
「はい。なんでしょう。」
「実はお願いがありまして…」
「私にできることであればなんなりと。」
「今日で私の執事をやめることってできますか?」

突然のお願いに田中さんは驚いたのか、少し怖い顔も目を丸くしていたがすぐに話を続けてくれた。

「私の今の主人は旦那様になります。旦那様からの指示があればやめることができます。」
「やめるといってもお給金や住居はそのままで構いません。私を仕えるという見方ではなく1人の人間として接してほしいのです。」

不思議な表情をしていたがそのまま私は話を続けた。

「2年後を考えた時に、自分の身の回りの事をできるようになっていた方が良いと考えたのです。」

少し間の沈黙が怖かったが
 
「承知いたしました。では、明日から私も執事としてではなく田中凌雅として過ごさせていただきます。」

話のわかる人で安心した。
これは私の覚悟でもあった。
そして、その後生活ルールをいくつか2人で決めた。

 ・料理や洗濯はそれぞれで行うこと
 ・田中さんは空き部屋や庭の手入れを行う
・学校までの送迎は行う
 ・名前で呼び合う

明日からは執事ではなく、友だちとして接してもらうようにもお願いをした。

期待と不安が入り交じる中だったが、頑張ろうと気合いを入れて深い眠りについたのだった。