○Side双葉○
それから数週間。
4人でいることも多くなり、未羽ちゃんや夏目くん、加藤くんともかなり仲良くなることができた。
あの日以来、話ができる友だちができたことで、ヒマワリに話かけに行くこともなくなった。
「未羽ちゃん、私バイト始めようかなって思ってるんだけど、何がいいかな?」
学校生活にも慣れ、バイトを始めることにした。
「うーん、私もバイトしたことないからなあ。悟なら何かアドバイスできるんじゃない?バイトしてるし!」
「加藤くんはなんのバイトしてるの?」
「俺はカフェ。まあ部活の無い日だけだからそんなに沢山してるわけじゃないけど、飲食はオススメかも!」
「双葉ちゃん、ファミレスとかどう?ウエートレス姿似合いそう!」
「そうかな?未羽ちゃんの方が似合いそうだけど。」
そんな話になり、以前凌雅さんと行った家の近くのファミレスへ応募してみることにした。
加藤くんから履歴書の書き方などを教わり、家で書いていると
「バイトはじめるの?」
凌雅さんが覗いてきた。顔の近さに驚きつつ、
「わぁ!あ…はい。この前のファミレスに応募しようかと思って。料理を覚えたりもできるかなと。」
「へえ。」
興味があるのか無いのか分からない反応をしつつも
「頑張れ」
そう一言エールをくれた。
見た目は相変わらず怖さも感じるが、最近は凌雅さんも優しい人なんだなと実感する。
翌日
今日はファミレスへ応募の電話をする予定。
朝から少し緊張していたが、
「おはよう!」
朝から未羽ちゃんが笑顔で挨拶をしてくれ少し和んだ。
そして昼休み
未羽ちゃんや加藤くんに手伝ってもらいながら電話をかけた
……
「はい、よろしくお願いします!」ピッ
とても緊張した電話を終えると、一気に体の力が抜けた。
面接は明日となった。
翌日の放課後。
ついに面接の時間が来た。
緊張しながらファミレスの中に入っていき、通された部屋には優しそうなおじさまが出迎えてくれた。
「店長の吉田です。榎本さんだったかな?どうぞ。」
「失礼します。」
志望動機などを話していると、吉田さんは気に入ってくれたようで即合格と言ってくれた。
「ちなみにシフトの希望はある?」
「とにかく稼がないといけないので、毎日大丈夫です!」
「さすがに毎日は心配だから、月曜は固定でお休みとかでいいかな?」
「ありがとうございます。大丈夫です。」
「じゃあ、明日からよろしく。」
「よろしくお願いします!」
無事に決まり、平日は月曜休みの17:00~22:00、休日は13:00~22:00のシフトに決まった。
働くからといって、学業を疎かにしてもいけないと今から気合いが入った。
そして翌日からの1週間は怒涛の週となった。
学校が終わったらすぐにファミレスへ。席の番号や料理の注文、片付けや会計などとにかく覚えることもたくさん。
しかし、バイト先の人の優しさもあり、楽しく過ごすことができた。
仕事を終えると、賄いのご飯も出してもらえたりとプラスなことばかりだった。
そんなある日、初めてホールの先輩もいない状況で回さなければいけない日が来た。
大きなミスも無く、ただただ疲労困憊して帰宅した。
賄いも食べておらず、夕食が今日はまだだった。キッチンへ行くと何かの仕込みなのか片付けなのかが終わった様子の凌雅さんがいた。
「凌雅さんこんばんは。お疲れ様です。何か残り物ってありますか?まだ食べてなくて…」
「今日は1人分しか作ってないから無い。」
「ですよね…何か作って食べます。」
疲れた体を動かしながら冷蔵庫へ向かい、とにかくお腹が空いていたこともあり、残っていた白米でお茶漬けを作ることにした。
ファミレスで覚えたお茶漬けが最近は少しブームにもなっている。
お湯を沸かし、お茶漬けの素も入れ食べ始めようとするとまだ凌雅さんが居たことに気がついた。
しばらく様子を見ててくれたようだった。
「双葉様。」
「なんでしょうか?」
「料理を教えるという約束ですが。もう教えなくても大丈夫なのでは?」
急に言われた言葉に一瞬理解が追いつかなかった。
教えてもらうのをやめる。確かに最近はバイトに行っている時間が長く教えてもらえることも少ない。
ただ、いざひとりで大丈夫かと言われると自信も無く不安だった。
「えっと…最近確かに教えてもらえる時間が減ってますがまだ不安というか、自信がないというか…」
「いつまでお嬢様してるつもり?」
急に話しているトーンが落ち、何か怒っているような雰囲気も感じた。
「特にお嬢様をしてるつもりは…」
「考え方がお嬢様してるって言ってるの。いつまでも甘えてんなよ。」
「甘えているつもりはないですが…」
「両親になんて言われてたか知ってる?」
「え…」
「ワケありお嬢様だよ。」
そう言って、出ていってしまった。
何か怒らせるようなことをしてしまったかと考えたが何も浮かばない。
そして、ただ悲しさだけが残ってしまった。
"ワケありお嬢様"
父や母にそう言われてしまっていてももう仕方がないと思っていた。
しかし、何より悲しかったのはここまで一緒に過ごしてきた凌雅さんにもそう思われていたということだった。
喧嘩してしまったこと。そして、凌雅さんにワケありお嬢様と思われていたこと。2つが重なり涙が止まらなくなった。
そんな時に思い出したのは庭のヒマワリ。
もう時期的に枯れ始めている頃だったが、今の気持ちを吐き出せるのはと思いつき、足を運んだ。
星空と枯れ始めのヒマワリを目の前にすると、気持ちがスっと少し落ち着いた。
深呼吸をしてベンチへ座り、さらに落ち着かせようとしていると、玄関の方から凌雅さんが庭へ向かってきた。
「いた。」
今は、話したくない・声も聞きたくないと思いつつも誤解を解きたいという気持ちも強かった。
「…さっきは、ごめん。言い過ぎた。」
「いえ…わたしもごめんなさい。バイトの疲れもあってイライラしていたようです。」
一呼吸置いて、私は凌雅さんに今までずっと聞きたかったことを聞いてみた。
「あの…凌雅さんは私が家を追い出された理由ってご存知ですか?」
「…特には聞いていない。仕事をする上でそれを知る意味は無いから。」
知る意味は無い。という凌雅さんの言葉が嬉しいような、悲しいような…そう思いながらも気づけば一葉ちゃんのことや光希さんのこと、そして家を追い出された理由を凌雅さんへ話していた。
思い出すだけでもまだ苦しい。突然話を始め、驚かせてしまったかもしれなかったが、話が途切れてしまっても、凌雅さんはじっと真剣に聞いてくれていた。
そして、話が終わるとふわっと温かいものに包まれた。
下を向いていて気が付かなかったが、凌雅さんに抱きしめられていた。
「もう1回言わせて。本当にごめん。双葉は悪くない。」
そう一言いってさらにギュッと抱きしめる力が強くなった。
「…ありがとう…」
涙ながらに出た精一杯の一言だった。
そして抱きしめられているにも関わらず不思議と苦しさは感じず、凌雅さんの匂いと温もりに安心して、目を閉じ眠ってしまっていた。