『俺がそうしたかっただけだから気にすんなって』


そう言って触れられた頭。

くしゃっと撫でられた髪に、とくんと胸が跳ねたのが分かった。



それが、この恋の始まりだった。



その翌日、あたしはお詫びにコーヒーを差し入れに行って……色々星の話を聞いた。

柊くんから聞いた星の話は、授業でも習った事はあったけど、だけどそれとはまったく違う話に聞こえた。

とてもロマンチックで、とても素敵な話に。


そんな星に興味を持ったあたしは柊くんに許しを得て、毎日天文台に通うようになった。

だけど、そうしていくうちに、星への興味よりも柊くんへの興味の方が大きくなってしまって。

淡い恋心だったハズの気持ちは、自分でも苦しく思うほどにどんどん……

どんどん、どんどん大きくなって、いまや一等星よりも大きいんじゃないかって思うほど。

……いや、もうそんなレベルじゃないかも。


月?


あたしの気持ちが熱を持つには、そうたいして時間はかからなかった。

多分、ものの1ヶ月とかそんなもんだったと思う。



いつの間にか夜柊くんと天文台にいるのが当たり前になって。

一目惚れに近かった気持ちが、きちんと意味のあるものに変わった。


会えない休日が寂しくなって。

気持ちの大きさに気付いた。



それからずっとこうして隣で、柊くんの言葉を待ってるのに。

柊くんはちっとも核心に触れてくれない。


……あたしにも必要以上触れてくれない。



ねぇ。

好きなんだよ?


ねぇ。

本当に気付いてないの?



何度心の中で呼びかけたって答えなんか返ってくるはずないのに。


好きだからこそ、大切だからこそ、いつもより余計に萎縮した勇気がどこかに隠れてしまう。



『好き』


たった一言が……すごく、遠くて見えない。

十等星並みのあたしの度胸。


その輝きを柊くんの望遠鏡が探し出すのは……とてつもなく不可能に近いと思う。



.