そもそもの始まりは、1年前。

1月末の頃だった。


学校からの帰り道、首に白いマフラーを巻いて人通りの多い道を歩いていた時だった。


『あ、すみません』

『あ……いえ』


俯いていたせいであたしは誰かとぶつかってしまって。

慌てて顔を上げると、怒りもしないでにこっと微笑んでくれている男の人がいた。


優しそうな瞳に、やんちゃそうな口許。

顔立ちの整ったその人は、あたしが少し見上げるほどに背も高くて。


『怪我はない?』


心配してくれる優しさと、低すぎない甘い声に完全に恋に堕ちていた。


だけど……


『もちろんですっ』


あたしにその後どうこうするなんて高等手段が使える訳がなく。

そんな訳の分からない返事をするのが精一杯で。

両手を顔の前でぶんぶん振って、大丈夫をアピールするあたしを、その人は笑ってた。


『ごめんね、俺もよく見てなかったんだ。……じゃ』


そう言って、男の人はすれ違ってしまって……

その後ろ姿に残念な気持ちを覚えながらも家路に着こうとした時。


ある事に気付いた。


それは――――……

後ろ首を引かれる、想い。


……では、なくて。


本当に引かれている首に。



どうやらぶつかった時に、さっきの人の服か何かにあたしのマフラーが引っかかったみたいで……

振り向くと、白いマフラーから解けた毛糸が一本、その人との間を繋いでいた。


『……―――っ』


まだそんなに離れていないその人に声を掛けようとして、その人の後ろを小走りで追う。


『あのっ……』


途中掛けた声は、周りの物音にかき消されてしまう。



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