その後、関係が変わる事なく数週間過ぎて。

2回目にうとうとしちゃったのはその頃。


その日珍しくおしゃべりだった柊くんの声が耳に気持ちよくて……つい一瞬だけ。

内容は、やっぱり星の事だったっけ。

月はいつも同じ面しか地球に向けないから、月の裏に何があるか分からないとかそんな話だった。




『……好きなんだ』


柊くんのその言葉に反応してハっと目が覚めて……あたしは柊くんを見た。

起きたばかりなのに、やけに頭が冴えてた。

……柊くんの言葉のせいなんだけど。

だって、好きなんだって……それって……


だけど柊くんはいつもと変わった様子はなく、手元の本に視線を落としていて。

あたしの視線に気付くと、ゆっくりとその視線をあたしに向けた。


『好きなんだ』って確かにそう聞こえたけど……主語はなんだった??

自分の都合のいいように捉え過ぎてた思考回路が恥ずかしくなりながら、あたしはその答えを見つけて、慌てて口を開いた。


『うん。知ってるよ?』


柊くんの手元の図鑑。

開かれたページは月のページ。

柊くんの一番好きな星。


つまり、『好きなんだ』の主語は……月。


うっかり『あたしも柊くんが好きっ』なんて言っちゃいそうになった自分が本当に恥ずかしくなってきて、あたしは両手で赤くなった顔を覆う。


『……沙織は?』

『え……?』

『沙織はどう思ってる?』


赤くなった顔で柊くんを見ると、柊くんはやけに真剣な顔をあたしに向けていて。

あたしは小さく首を傾げながら答えた。


『えっと……興味はあるよ? もっと色々知ればもっともっと好きになれると思う』


柊くんの好きなものは、あたしも好きになりたい。

そんな気持ちを込めた言葉だったんだけど、柊くんは少しだけ黙って……そして優しい顔で微笑んだ。


『じゃあもっともっとすげぇ好きになったら教えて』



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