一度だけって言ってたけど、本当は二回うたた寝しちゃった事がある。
……柊くんには内緒だけど。
出逢って1ヶ月くらいした頃には、あの天文台はあたしにとっても気の休める場所になってた。
柊くんと過ごす空間が嬉しくてドキドキして……でも、不思議と安らげる、そんな感じだった。
心地のいいドキドキが身体を揺らして、なんとも言えない気持ちのいい状態を作り出す。
出逢った1月から1ヶ月が過ぎて、季節は丁度バレンタイン。
その頃にはすっかり育っていた気持ちに、チョコを渡すか迷って……徹夜で迷った挙句、止めた。
まだ早いって思ったのもあるけど、まぁ、大きな原因は勇気不足だけど。
そんな寝不足の身体を引きずって天文台に行って……そしたらいつの間にか寝ちゃってて。
目を開けると、すぐそこにあたしを見つめる柊くんの姿があった。
『……あれ、なんで……』
『なんか気付いたら寝てたけど?』
『違くて……なんで柊くん、星見てないの?』
膝を抱えたまま、その膝に頭を乗せて横を向いて眠っていたあたし。
そんなあたしの顔を眺めるように、隣に座ってあたしを見る柊くん。
いつもは星ばかりを捕らえているその瞳に見つめられてしまって、あたしは緊張のあまりそんな言葉を口にした。
『なんでって……星より沙織の寝顔見てたかったから』
考えてみれば、それが初めてだった。
柊くんから、期待しちゃうような言葉をもらったのは。
何も答えられずにいるあたしをじっと見た後、柊くんはぽんとあたしの頭を撫でて、望遠鏡を覗いたっけ。
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