サムは鋏を道に良く落としてしまうのか、頭を掻いて、恥ずかしそうにしながら去っていった。
アーロンは庭師サムが鋏を落としたからと、よくわからぬ罰を与える人間ではない。それは、当然のことのはずなのに、私はそれを確認してほっとした。
アーロンは義母と同じような人間ではないと、そう思えたから。
「……ブランシュ。手の調子は、どうだ?」
私の隣へとアーロンは座り、私は自然と彼の反対側に寄ってしまった。
「旦那様……はい。買っていただいたお薬のおかげで、治って来ました」
私は何故か彼の顔を恥ずかしくて、見られなかった。顔が熱い。じりじりと距離を空ける私を見て、アーロンは落ち込んでいる声を出した。
「……どうした。結婚をしたと言うのに、一年間も放っておいてしまった俺のことが嫌になったのか。ブランシュ」
「いいえ! そういう訳ではないのですが」
「では、どういう訳だ。何故、距離を空ける」
アーロンは不思議そうで、何が原因なのか知りたいようだ。私だって普通にしていたいのに、普通に出来ないから……胸が苦しいのに。