レースの手袋の中にある手はアーロンが最高級の治療薬を買ってくれたおかげで、何日か経った今では驚くことにピンク色の皮膚が再生し、もうすぐ包帯を巻くこともないだろうと思う。

 手は生活の必要上良く動かしてしまい、回復が遅い部位だと言うのに、回復の速度が早すぎて、あの薬はどれほどの値段がするのだろうと身震いしてしまう。

「それは本当に良かったです。奥様……失礼を承知で言いますが、儂はあの怪我が誰の仕業であるか、旦那様にお伝えするべきだと思います」

 サムはアーロンが帰って来たのなら、あれを誰にも言わずに隠す必要はないと思ったのかもしれない。

「駄目よ……旦那様は気性の荒い方。きっと、とんでもないことになってしまうわ」

 アーロンと義母の激しい言い争いを聞きたい訳でもないし、実家と婚家が揉めることも嫌だった。

 それに、義母は大きな権力を持つ公爵家の人間で、アーロンが国を救った英雄だとしても、逆らえば何をされてしまうか。

 私の実家、エタンセル伯爵家の面々とは、出来るだけ無関係で居たい。