私はゆったりとした部屋着を着て、庭に出て大きくため息をついた。
夫アーロンが一年ぶりに帰って来てからと言うもの、私の生活は大きく変わった。
クウェンティンは今まで私に任せてくれていたキーブルグ侯爵家としての執務も『落ち着かれるまでは、旦那様より休ませるようにと指示を受けております』と言って、任せてくれなくなった。
クウェンティンは私がここにやって来た時から、当主として私が仕事に関わることを止めていた。
けれど、アーロンが出した『妻の意見を最優先に尊重するように』という指示に従っていただけで、当主たるアーロンが私に休むように指示を出したならば、それに従うだろう。
帰って来たばかりだけど、将軍職にあるアーロンは、先の戦争の戦勝報告や祝勝会など、司令官として顔を出さねばならない仕事で多忙で、あまりキーブルグ侯爵邸には居ない。
目下の心配のタネだったヒルデガードも居なくなり、サマンサが産んだ男の子の泣き声も聞こえなくなった、静かなキーブルグ侯爵邸の庭園で、私は一人ぼんやりしているだけ。
「奥様……手の具合は、いかがですか」
初老の庭師サムは、ついこの前に、義母が私の手を鞭で打ったことを知っている、唯一の使用人だ。
これまでも彼はずっと心配してくれていたのだろうけれど、私が他言無用だとお願いしたので、他の誰かが居る前ではずっと聞けなかったのだろう。
「ああ。サム。何ともないわ。もう、治ってきたから」