執事クウェンティンはアーロンに言われた通り、私の意向を最大限に尊重してくれた。

「わかった。もう良い……確かにお前が言う通りだ。どうやら、俺の指示が悪かったようだ。悪かった」

 アーロンはすんなりと自分の指示が悪かったと認め、クウェンティンに謝った。私は二人の会話を聞いていて、正直に言ってしまえば驚いた。

 雇用主で気位の高い貴族がこうして使用人に非を認め謝るなんて、通常であれば、あり得ないはずだからだ。

 けれど、アーロンもクウェンティンも特に動揺しない様子で話を先へと進めて行く。

「……ヒルデガード様が奥様に再婚を迫っていた時も、旦那様に帰ってきたら問答無用で殺せと指示を頂いておればと、とても後悔をしました」

「……なんだと? ヒルデガードが、ブランシュに再婚を迫っていただと? それは、事実なのか?」

「はい。亡くなった兄の財産は、美しい妻も、すべて俺のものだと言っておりました」

 ……確かにヒルデガードは、そう言っていた。兄はこうして生きていて、弟の彼の出る幕は無くなってしまった訳だけど。