クウェンティンは彼には珍しく、わかりやすく動揺していた。

 クウェンティンはアーロンにはとても忠実な執事だから、夫に不信感を向けた私を宥めなければと思ったのかもしれない。

 唯一の味方だったクウェンティンとて、アーロンの指示だから私を最大限に尊重してくれただけだった。

「……クウェンティン。ヒルデガード様やサマンサのように、ここを追い出されれば、私は行くところがありません。もはや、実家のエタンセル家にも帰れません。どうしたら良いですか」

 夜中にも関わらず荒っぽく追い出されていた二人を見れば、私だってアーロンの機嫌を損ねてしまったなら、あんな風に追い出されないかと心配になった。

 一目で意図がわかりやすい煽情的なドレスを着て再婚相手を探そうと、私が夜会会場に居たのは、まぎれもなく事実なのだから。

「……もし、万が一、そのようなことになれば、旦那様は必ず奥様の居場所を用意なさいます。何も心配することはありません」

「そう。良かったわ……」

 その時、控えめに扉を叩く音がして、私はいつものように朝食をワゴンに載せたメイドが入って来るのかと思った。