なおも言い募ろうとしていたヒルデガードとサマンサは、数人の使用人に取り押さえられた。大きく息をついた不機嫌そうなアーロンは部屋へ戻ろうとしてか、こちらを振り返って私を見つけた。

 まさか、ここに私が居るとは思っていなかったのだろう。とても、驚いているようだ。

「ああ……ブランシュ。どうした。疲れていたのではないのか?」

 アーロンがゆっくりと近づいて来て、何故か私は逃げ出したくなった。

 ……彼さえ生きていてくれればと、訃報が届いた一年ほど前から数え切れぬほどに思ったのに。

 今ここに、そのアーロンが居るのに……それなのに、なぜだか怖いのだ。

 アーロンは話に聞いた通り、精悍で美形な顔を持つ男性で、その体は逞しく鍛え上げられ頼れそうだ。

 私のことを、きっと守ってくれるだろう。そんな彼が、ただ距離を縮め近づいて来ただけなのに、私は泣きそうになった。

 ……どうして? 望み通りに、夫アーロンはこうして帰って来てくれたのに。

「あの……本当に、アーロン……様なのですか?」