だからこそ、私はキーブルグ侯爵家はこれで大丈夫だろうと、そう安心して出て行くつもりだったのに……どういうことなの? この女性サマンサは、夫アーロンの愛人ではなかったの?

「やっ……やだ。お忘れではないですか? 私は以前、アーロン様にお会いしたことがあって、泥酔された時に一夜を共にして妊娠したんです!」

 サマンサは笑いながらしなを作ってアーロンに言ったけれど、不快そうな表情の彼は鼻で笑った。

「そんなことが……ある訳がない。あいにく、俺は酒が強くてね。これまでに酔い潰れたことなど一度もないと言い切れる。行きずりの女と一夜を共に過ごした記憶どころか、お前と会って話したこともない。ああ。死んだと聞いて、詐欺師が上手く取り入れると踏んだか。クウェンティン。不毛な言い合いは終わりだ。この二人をさっさと、つまみだせ!」

「御意」

 アーロンの言葉にクウェンティンは胸に手を当てて返事をして、使用人に目配せをした。

「まっ……待ってください! 私は! 私は詐欺師ではありません!」

「兄上! 酷いよ! 話を聞いてくれ!」