妻なのだから葬式では嘆き悲しむべきなのだろうけれど、会ったこともない書類上だけの夫とは、何一つ思い出もなかった。

 慌ただしい時期を越えて落ち着けば、キーブルグ侯爵邸の女主人や、領主代行としての書類仕事は山積み。

 夫アーロンが亡くなってからというもの。ここ一年は怒涛の日々で本当に大変だった。

 数年前に勘当されて旅から帰って来た義弟から再婚を迫られることになり、旦那様の愛人を名乗る身重の女性などを保護する対応なども含め、本当に……夢見ていた幸せな結婚生活なんて程遠くて、常に悩み苦しむ激動の日々だった。

 けど、そんな辛い日々は……もう、終わる。

 ……いいえ。ブランシュ。私は逃げても逃げても何処までも追い掛けてくるような不幸を、自分の力で終わらせるのよ。