「お前には、本当に残念な知らせだな。この通り、死んでいない」

「兄上の訃報を聞いた。だから……キーブルグ侯爵家の者として、帰らねばと……」

「何度も言うが、ここはもうお前の家ではない」

「兄上。それは、父上が言った言葉だろう?」

「残念だが、俺だって、同じ気持ちだ。お前と同じ血が流れていると思うと、うんざりするよ」

「だが、訃報が間違いだったのか? そんなことが、あるはずが」

「お前に説明する事でもないと思うが……死んだ振りをしたんだ。勝つために」

「死んだ振り……? 何を」

「何倍もの軍勢を前に、敵が驚くような策を練ってもおかしくはあるまい。司令官が死んだと聞けば、敵は油断する。味方は焦って加勢に来る。そうして油断したところを、叩くしかない。でなければ、あの連合国軍には勝てはしなかっただろう」

「兄上は……敵を騙すために、敢えて死んだふりを選んだと?」

 そうなの……? だから、アーロンは開戦直後に亡くなったと訃報が来て、こうして戦いに勝利したから帰って来たんだ……。