「俺だって同じ気持ちだよ。二度とお前の顔は見たくない。自分があの時に何をしでかしたのか、覚えているのか!」

「兄上。どうか、待ってくれ。俺の話を聞いてくれよ!」

 どうやら、帰ってきたアーロンと勘当されていたはずの弟ヒルデガードが言い争っているようだ。

 兄弟二人の関係は険悪だったとクウェンティンからも聞いていたけれど、まさかここまでとは思わなかった。

「出て行け! 俺に今すぐ、殺されたくなければな!」

「待ってくれ。兄上! どうして、帰って来たんだ……死んだはずだろう?」

 これまで寝ていたのだろうか寝癖の付いたヒルデガードは悔しそうな表情をして、アーロンは不機嫌そうに睨んだ。

 玄関ホールには、ヒルデガードの部屋から出された荷物が、乱雑に置かれていた。

 夜会から帰って来たアーロンは、ヒルデガードが帰って来ていることを聞き、荷物を全てここに出すように使用人たちに命じたのかもしれない。

 戦いを職務とする軍人らしく、荒々しい性格をしているとは聞いていたけれど……こんな風に追い出すなんて、私には絶対に出来ないことなので驚いてしまった。