「閣下。しかし、閣下は出征前に、結婚されたばかりではないですか。亡くなったと聞けば、細君は悲しまれるでしょう」

 それは、そうだろう。この男も参列する予定だった、結婚式のことだ。

 あと数時間襲撃の知らせが届くのが遅ければ、花嫁から離れがたかったはずなので、逆に運が良かったのかもしれない。

 それに、絶対に負けられないという理由も出来た。

「ああ……軍の将たる俺がここで敗れれば、その妻が敗戦国でどんな扱いを受けるかを考えてみろ。死ぬよりも、辛い目に遭うだろうな」

 言葉に詰まったジェームスはそれからは、何も言わなかった。

 開戦の時、俺は敵側が矢を射はじめた時、命じていた通りに、肩に刺さった矢を見て大袈裟な動作で馬から落ちた。

 自分では少々わざとらしかったかもしれないとは思ったが、作戦を知る士官の部下以外は、大いに狼狽してくれたようなので、俺の作戦通りに上手く行った。

 頼みの司令官が開戦早々に死んだと知って、兵にも逃亡者が出始めた。

 俺はそれを、止めるなと命じた。逃げた奴らが話を広めてくれれば、こちらとしても作戦がやりやすい。