軍勢の数にどれだけの大きな差があろうが自軍を勝利に導く奇策を鮮やかに繰り出すかの軍神さえ居れば、シュレイド王国は必ず勝てるだろうと、それまでに大半の国民は安心しきっていた。

 だと言うのに、急な訃報に宮廷や国民たちは旦那様の死を聞き唖然としてしまい、その時ばかりは国内全体が沈痛な重苦しい空気に包まれ、彼が居るならばと余裕のある貴族たちも、慌てて軍勢を率いて国境にまで出征したと聞く。

 それは、私は後から詳しく聞いた話で……その時には既に彼の妻であった私は、遺族としての葬式の準備や親戚一同への対応などで忙しく走り回り、悲しんでいる時間などはなかった。

 多くの軍勢を突破するために、将軍の彼は無茶な作戦を自ら先導し、激しい戦いの中、死体すらも見つからなかったそうだ。

 とは言っても、私たち二人は生前に一度も会ったこともないのだから、お葬式に彼の伴侶として出席していても、不思議な気持ちになってしまった。

 悲しい事は、悲しかった。もしかしたら、実家へ帰れと言われてしまうかもしれないと思っていたからだ。