「どうだ……これで大体の状況は、理解出来たか? 敵の軍勢は我が軍の倍以上で、しかも、不意打ち。援軍が来るには時間が掛かるだろう。誰しも聞けば驚くほどに、絶望的な状況だ」
国境にある要所。そこに砦の中、大きな円卓の上に置いた地図を指し示し、ここに居る自分たちが、今どれだけ死に近い状況にあるかを懇々と説明した。
我がシュレイド王国軍は、この地を守る辺境伯の護衛騎士団と合わせて、やっと三万。対して、ひとつひとつは小国とは言え、三国合わせた連合軍は十万。
隠され秘密裏に準備されていた不意打ちの襲撃に、我が軍は十分な軍勢で臨めるはずなどなかった。
しんとした沈黙の中、司令官の俺が最優先にすべきことを言った。
「よく聞け。開戦早々、俺は死ぬことになる」
「は?! なんと仰いました!?」
「閣下、一体何を?!」
「そうです! まだ、確かに我が軍が不利ですが、勝敗が決まった訳ではないでしょう!」
ざわざわと慌てふためき騒ぎ出した部下に、とりあえず鎮まるようにと、俺は片手を上げて制した。
「そう結論を急くな。この絶望的な状況を好転させるには、そうするしかない……それに、語弊があった。実際に死ぬ訳では無い。死んだ振りをするんだ」
「死んだふり……ですか?」