……怖い。逃げ出したい。怖い。すぐに終わる。怖い。我慢していれば、すぐに……。

 手に鞭を打つ音が聞こえて、義母が十数えるのを待った。

「……使用人は、もっと厳格に躾けなさい。ブランシュ」

「はい……ありがとうございます」

 終わった……私は手のひらにある熱い痛みに悲鳴をあげそうな口を一旦閉じて、義母にお礼を言った。

「帰るわ……わかっているわね? ブランシュ」

「はい。わかっております。ご指導ありがとうございました」

 妙に優しげな猫撫で声を出す義母に無理矢理微笑み、私は膝をついたままで頭を下げた。

「奥様……」

 足音が遠ざかり、誰かが私の元へと駆け付けた。そちらへと目を向けると普段は愛想のないサムが、血相を変えていた。

「……大丈夫よ。気にしないで。私が貴方を雇っているのだもの。責任は私にあるわ……けれど、このことは誰にも言わないで。他言無用よ。絶対に言わないと約束して……クウェンティンにも」

「奥様……しかし!」

「それを聞いた誰かにも、貴方も、危険があるかもしれないから。良いわね。巻き込みたくないの」