貴族として使用人の立場を理解していないと言われてしまうかもしれないけれど、アーロンの残してくれた執事クウェンティンは、母の死後、初めて私の味方になってくれた人だった。

「主人の私が、それで良いと言っているのよ。命令は聞けないの? クウェンティン」

 私が重ねて彼へ言ったことで、これは逃げられないと観念したのか、クウェンティンは片眉を上げ息をついてから言った。

「かしこまりました。旦那様より自分が居ない時は、奥様が望むことを叶えるようにと申し渡されておりますので。そのようにいたします」

 この時、クウェンティンの言葉に少しだけ違和感を抱いたけれど、私は気のせいだろうと思った。

 久しぶりに義妹ハンナにも会い、疲労を感じていた私は、夜空の映る窓へと目を移した。

 ……あんな風に人前で罵られて、打ちのめされた気持ちになってしまうのは、仕方ないこと。

 私にだってそれなりに自尊心は持っているけれど、それを大事にしてくれた母は、もう亡くなってしまった。

 ハンナが義理の姉である私を馬鹿にすることは、いつものことで、それは仕方ない。