「ああ。亡くなってしまった義兄様にも、私もお会いしたかったです。どうやら、軍人らしく荒い性格だけど美男子であったことは間違いないそうですよ。ええ。まあ……もう、二度とお会いすることも出来ませんけどね。ふふふ」

 わざとらしくアーロンの話を持ち出し、扇を開いて嘲るようにハンナにクスクスと笑われても、私には何も言えない。

 ここで、私が何が言えるだろうか。

 義母の実家の公爵家には力があり、それはキーブルグ侯爵家よりも家格が上で、それに私は血を継ぐ当主でもない未亡人としてとても立場が弱い。

 そんな私には、ハンナに何も言い返せるはずがなかった。

「ええ……ハンナにも良い男性が現れるように、願っています」

 静かに微笑んで、こう言うしかなかった。同じエタンセル伯爵家の者であろうとも、私たちには明確な違いがある。

 確固たる後ろ盾を持って生まれて来たか、否か。

「ああ。ありがとうございます。お義姉様に願ってもらわなくとも、私は別に大丈夫なんですけどね……ですが、お元気そうで良かった! それでは、失礼します」