「邸に旦那様の愛人だと名乗る女性が、訪ねて来られました。彼女はお腹が大きく……懐妊されていて……それが、亡くなられた旦那様の子どもだと言い張るのです」

 私は彼の言葉を聞いて、驚き過ぎて息が止まるかと思った。

 ……アーロンの愛人? それに、彼の子を懐妊しているですって?

 近くに居たヒルデガードは面白そうに笑い出して、優雅な仕草で立ち上がった。

「これは、傑作だ! 兄さんは会わぬままになった妻の他にも、女が居たのか……面白い。嘘ではないのか、確かめるために、会ってみようではないか」

 私とヒルデガード、そして、いつも無表情な彼が信じられないほどに凶悪な表情となったクウェンティンが続き、玄関ホールへと急いだ。

「……こちらが、その女性でございます」

 そこに所在なく立っていた、見るからにおっとりとした庶民の服を着た女性は、大きなお腹を抱えながら床に座り頭を伏せた。