「俺と結婚する気になったか? 美しいブランシュ」

「……ヒルデガード。私から離れてください」

 邸内で廊下を歩いていた私は近くに寄って来た義弟から、さりげなく距離を取った。

「君と俺が結婚すれば、君も夫の居ない未亡人として侮られることもない。亡き兄の妻を弟が娶ることだって、今までにだって良くあることだろう」

「ええ……そういうことも、確かにあるかもしれませんね」

 我が家では、ないことですけど……私は出て行くので。

 ヒルデガードが帰って来てからというもの、彼から使用人たちの人目も憚らずに、喪が明ければ自分と再婚しようと口説かれることが増えた。

 使用人たち、特に執事クウェンティンは、アーロンの弟ヒルデガードを嫌っているようだった。

 私は生活する上である程度のお金が必要だろうと、毎月決まった額のお金を渡すようにクウェンティンに指示を出していた。

 けれど、ヒルデガードはそれでも金額が足りないと暴れることもあった。

 私は立場上、彼に逆らえぬ使用人たちに被害が及ぶよりはと、ヒルデガードの満足するように、十分なお金を与えるようになった。

 気がつけばヒルデガードは貴族として紳士らしい高価な服を着て、夜も遊び歩いているようだ。