「とは言っても、アーロン様は今は居ないのよ。落ち着きなさい。ヒルデガード様は勘当されたとは言え、貴族の一員。そんなことをすれば、クウェンティンが罪に問われてしまうわ」

 静かに首を横に振った私に、クウェンティンは悔しそうに呟いた。

「奥様……」

「私を守るためとは言え、今後、ヒルデガード様に逆らっては駄目よ。クウェンティン。アーロン様の亡き今、彼は一番にキーブルグ侯爵家の血を濃く引いているお方。嫁いでから会いもしていない兄の妻の私などより、よっぽど爵位を継ぐのに相応しいわ」

 未亡人とは言え、私はアーロンと会ってさえもいない。

 たとえ、夫の遺言状があろうが、侯爵家を受け継ぐ正当な爵位後継者が帰って来たとなれば話は別だろう。

「ですが、奥様。それでは、アーロン様のご意向に逆らうことになります……」

 私に向け必死で言い募るクウェンティンは、亡くなった主人アーロンに変わらぬ忠義を捧げているようだ。

 きっと、亡くなったアーロンのことを尊敬し、人として愛してもいるのだろう。

 居ない今もそうしてしまう程に、夫は素敵な男性だったのだろう。